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「ふはっ…、」
場にそぐわない大倉の笑い声に思わず目を小さく見開いた。
こいつ、なんで笑ってんだよ。なんて思ったのが表情に出たのだろう。
大倉は「ごめん」と苦笑いを浮かべた。
「宏光、初めて会った日もそんな顔してたな」
大倉は懐かしむように目を細めた。
「あのときは藤ヶ谷くんと喧嘩してたんやっけ?」
そう問いかけられて数ヶ月前を思い返す。
確かに、大倉に出会った頃、俺は初めて藤ヶ谷と喧嘩をした。
喧嘩と言っても藤ヶ谷が彼女と別れていなかったことに勝手にショックを受けて、俺が一方的に藤ヶ谷を避けていただけなのだけれど…。
思えばその頃から藤ヶ谷のことを振り回していたんだ。なんて更に落ち込む自分がいた。
「あの時、あからさまに傷付いてます〜。って顔してバイトしてたやろ」
「…覚えてない」
「俺は覚えとる。『なんやこいつ』って思ったし」
「…、」
「けど、笑ったお前の顔みたら、今度は『もっと笑わせたい』って思った」
「…!」
「そんで気付いたら偶然だけどお前と友達になって…それから堪らなく好きになって…好きだって言って…いろいろあって…付き合って…、」
優しい表情で大倉が話すのを見て俺は今の状況が分からなくなる。
だって、俺とはもう無理だって言ったくせに、今、こんなにも愛おしそうに俺を見ている。
愛されているって痛いくらい伝わる。
それなのに、それなのに――
「俺は十分幸せやった…」
やっぱり俺達は終わりなんだ。
そう思うと俺はまた胸が苦しくなった。
だけど、ボヤけた視界の先、大倉は穏やかに笑ったまま。
「だから、俺は宏光には幸せになってもらいたい」
「おお…くら…、」
「宏光。お前は自分勝手で藤ヶ谷くんを選ぶんじゃない」
心の奥底にしまい込んだ気持ち。
藤ヶ谷のことが好きだって気持ち。
俺にはもう自分勝手だと思うしか出来ない…
そんな気持ちを彼は自分勝手じゃないと言い切った。
大きな手が俺の頭をクシャッと撫でる。
「横尾くんも…」
「っ…、」
「玉森くんも…」
「っ…、っ…、」
「俺も…、」
いつも俺を優しく見つめてくれた二つの瞳が俺を真っ直ぐ見据える。
「宏光の本当の笑顔が見たい」
「だから、その気持ちは自分勝手じゃない」
「皆の気持ちなんやで」
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せと - わたしはこの作品すきで年が変わってからも読んでいます。そして藤ヶ谷くん目線の続編を書く予定だと最後に書かれていたので、それをずっと今でも待っています。どうか作者の形この想いが伝わりますように。 (2019年5月11日 0時) (レス) id: 72bafeba6a (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、素敵な作品をありがとうございました。改めて始めから読み直しコメントさせていただいてます。何度みても涙して笑 作者様お二人の描く藤北が温かくて優しくてあまくかおるという題がぴったりで。毎回毎回癒されました。更新楽しみにお待ちしてます (2016年9月27日 15時) (レス) id: b659f64824 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ひとまずはこちらの完結、本当に素敵なお話をありがとうございました!長文失礼いたしました! (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ドキドキが止まらなくて、コメントする余裕がありませんでした(笑)← それくらい夢中になってはまっておりました!本当に出てきた全員が愛おしく感じるお話でした(*^^*)そして、藤ヶ谷さん視点のあまくかおる告知にすっかり舞い上がっている私ですが笑、→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、遅ればせながら完結おめでとうございました〜!もう、もうもう最後の終わり方が素敵だしにくいし大好きです(;▽;)ずっと読ませていただいてましたが、途中から更新通知きて開くのにドキドキして、読むのにドキドキして、読み終わっても→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:S・ぴーすけ | 作成日時:2016年7月19日 20時