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横尾さんが来た時点で、たまも来るだろうなって思ってた。
2人は俺を同じように心配してくれてるし、どんどん体調を崩す自分にそろそろ何か言ってくる頃だろうと思っていた。だけど、わざわざこんな弱りきってるときに2人して来なくてもいいのに。
体のしんどさからイライラしてしまい、自然と言葉もとげとげしくなる。
「よこーさんもお前も好き勝手言ってくれるよな。俺が悩んで悩んで、何回もきつい思いしてようやく選んだ結果なのに。」
「うん。で、その結果みつはぜんぜん幸せそうじゃない。それはなんで?」
「幸せだよ!」
たまの言葉にカッとなる。
幸せじゃないなんて誰が決めた?俺は大倉の隣にいて、あいつが笑ってくれることがこんなに嬉しいのに。
「あいつが笑うんだ。安心したように、幸せそうに。…それを隣で見れるだけで、俺は十分幸せだ。」
「へー、随分と慈悲深くなったもんだね、みつ。でも、みつはご飯も食べれないし夜も眠れなくなってる。そんな自己犠牲な愛情、あいつももらって嬉しいのかな?」
「っ、お前っ…!」
あまりの言葉に腕を振り上げてしまう。
でも、その腕はいとも簡単に受け止められてしまった。驚きに大きく見開く目に映るのは、…意地悪な言葉に反して、悲しそうに眉を下げるたまの姿。
その姿が先ほどの横尾さんとかぶる。
俺は、大事な友達を悲しませることしかできてない。
「俺もわったーも、みつが心配なんだ。わかってるでしょ?
…ねえみつ、ガヤが、」
「っ、なに…」
「…ほら、ガヤの名前を出しただけでこんなにドキドキいってる。体って正直なんだよ」
言って強く抱きしめられ、うるさく鳴る心臓の音を確認させられるように背中に手を当てられた。
それでも、…それでもそれを認めることはできなくて、たまから逃れようと胸を押し返す。たまは一度それを許さないというように抱きしめる力を強くして、そうして腕から解放された。
目の前にいるたまは、まだ悲しそうな顔。
体はしんどくて、友達を悲しませて。
何をやってるんだろうと思う。俺が望んでいたのはこんなことだったのかって、自分の選択に自信がなくなる。
…でも、大倉は笑ってくれていた。それだけで、これでよかったんだと、自分を言い聞かせることができる。
「…きつい思いさせてごめん。ゆっくり休んでね。また、来るから」
頭を撫でて帰るたまに、かける言葉は見つからなかった。
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せと - わたしはこの作品すきで年が変わってからも読んでいます。そして藤ヶ谷くん目線の続編を書く予定だと最後に書かれていたので、それをずっと今でも待っています。どうか作者の形この想いが伝わりますように。 (2019年5月11日 0時) (レス) id: 72bafeba6a (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、素敵な作品をありがとうございました。改めて始めから読み直しコメントさせていただいてます。何度みても涙して笑 作者様お二人の描く藤北が温かくて優しくてあまくかおるという題がぴったりで。毎回毎回癒されました。更新楽しみにお待ちしてます (2016年9月27日 15時) (レス) id: b659f64824 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ひとまずはこちらの完結、本当に素敵なお話をありがとうございました!長文失礼いたしました! (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ドキドキが止まらなくて、コメントする余裕がありませんでした(笑)← それくらい夢中になってはまっておりました!本当に出てきた全員が愛おしく感じるお話でした(*^^*)そして、藤ヶ谷さん視点のあまくかおる告知にすっかり舞い上がっている私ですが笑、→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、遅ればせながら完結おめでとうございました〜!もう、もうもう最後の終わり方が素敵だしにくいし大好きです(;▽;)ずっと読ませていただいてましたが、途中から更新通知きて開くのにドキドキして、読むのにドキドキして、読み終わっても→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:S・ぴーすけ | 作成日時:2016年7月19日 20時