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ピンポーン
食べ終わったおかゆの皿をシンクに持って行こうと立ち上がった時だった。本日二度目のインターホンが室内に鳴り響く。
ずずっと鼻をすする音がそのあとに続いた。誰だ。正直心も体もしんどくて、これ以上誰かに会うのは勘弁してほしい。
無視しようと思った。
でも鳴り止まないインターホンの音にさらに頭が痛くなる気がして、諦めてドアノブを回す。
「やっぽ」
「…たまか…」
なかば予感は的中した。
ドアの先にはバイト終わりだろう、職場の紙袋を提げたたまが能天気に笑って片手を上げている。
楽しそうな彼とは反対に、疲れが押し寄せるような気がして大きくうなだれた。が、そんな自分を気にする様子はなくたまが部屋に上がり込んでくる。
「お、わったーのおかゆ食べたんだ。えらいじゃん」
「…おう」
「うまいよねー、あれ。お腹に優しい感じがするし。俺からはこれ、コーヒーだけどみつが好きなやつ。」
「…ありがと」
そう言ってちゃっかり自分のものも用意していたのだろう、ミルクが入ったそれを取り出し残った紙袋を手渡される。
中から取り出すとだいぶ汗をかいていたが、冷たいそれがなんだかありがたかった。
「…たままで俺になんか言うの。俺、結構もうきついんだけど。」
「あはは、ばれてる」
…やっぱりたま、お前もか。
無邪気に笑うたまに、それでもいやな予感が的中して大きくため息をついた。
藤ヶ谷とさよならをして、大倉を選んで、2週間。
俺は幸せだった。もう迷うことなく1人の人を大事にできて、自分が笑えば大倉も嬉しそうに笑って。あたたかい空気を2人で作れることがとても幸せだった。
なのに。
そんな幸せな気持ちに反して、体はどんどん弱っていっていた。
大倉といるときはいつも通りだ。いつも通り笑えて、だから大倉だって変な風に思ったりしてるそぶりはない。
だけどそれ以外の時がダメだった。
1人でいるとき、よこーさんやたまといるとき。前みたいに飯が食えなくて、うまく眠れなくて。体はどんどんだるくなっていくし、体重だって減った。最近じゃサークルにもあんまり行けてない。
「体って正直だなって思うよね、みつ見てると」
「…うっさい」
「もういい加減認めたらいいのに」
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せと - わたしはこの作品すきで年が変わってからも読んでいます。そして藤ヶ谷くん目線の続編を書く予定だと最後に書かれていたので、それをずっと今でも待っています。どうか作者の形この想いが伝わりますように。 (2019年5月11日 0時) (レス) id: 72bafeba6a (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、素敵な作品をありがとうございました。改めて始めから読み直しコメントさせていただいてます。何度みても涙して笑 作者様お二人の描く藤北が温かくて優しくてあまくかおるという題がぴったりで。毎回毎回癒されました。更新楽しみにお待ちしてます (2016年9月27日 15時) (レス) id: b659f64824 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ひとまずはこちらの完結、本当に素敵なお話をありがとうございました!長文失礼いたしました! (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ドキドキが止まらなくて、コメントする余裕がありませんでした(笑)← それくらい夢中になってはまっておりました!本当に出てきた全員が愛おしく感じるお話でした(*^^*)そして、藤ヶ谷さん視点のあまくかおる告知にすっかり舞い上がっている私ですが笑、→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、遅ればせながら完結おめでとうございました〜!もう、もうもう最後の終わり方が素敵だしにくいし大好きです(;▽;)ずっと読ませていただいてましたが、途中から更新通知きて開くのにドキドキして、読むのにドキドキして、読み終わっても→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:S・ぴーすけ | 作成日時:2016年7月19日 20時