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立ち尽くしたまま、どれくらいの時間が過ぎただろうか。
相変わらず辺りは暗くて、夜が更けたせいか物音はほとんどしない。
まるで、世界に一人取り残されたようだ。
「…きっつ…」
ひとつ、ため息をつく。
そのまま言葉を吐き出せば、張り詰めていた空気が少し和らいだように感じた。
瞳を閉じれば、藤ヶ谷の泣き顔ばかりが浮かんでくる。
泣くだなんて、思っていなかった。
好きだって、あんな風に伝えてくると思わなかった。
…あんなに必死になるなんて、思ってなかった。
「…お前、どれだけ俺のこと好きなんだよ…」
言葉とともに自嘲気味な笑みがこぼれる。
ああばかな、随分と自意識過剰なことを言ったと思うのに、こぼれ落ちた言葉は耳にこびりついたようにはなれなかった。
…俺のことが、好き。
「もっと早く気づけば、って…はは…」
上を向けば、数個の星が目に映る。
そのままそっと目を閉じれば、…出会った時の藤ヶ谷が柔らかく笑っていた。
名前も知らず、隣に立つ彼女と仲睦まじくしていた姿。
最初は見ているだけでよかったのに、話しかけてくれて、笑ってくれるようになって。さみしそうな姿を見れば、力になりたいと思った。
…なんでもいいから、あいつの力になりたかった。
横尾さんが連れてきた時は、たまと一緒に驚いた。
そうして4人で遊ぶようになって、名前を呼んで、俺に笑いかけてくれるようになった。…友達になれるなんて、そんな奇跡みたいなこと起こると思わなかった。
「…幸せだったんだ、俺…」
藤ヶ谷の名前を呼んで、こっちを振り返って、そうしてやわらかく笑う彼の笑顔が好きだった。
名前を呼ぶことも、隣に並ぶことも、一緒に笑えることも。
それが許されることが、数ヶ月前の自分からしたら本当に奇跡のようだろう。
…夢の国で、俺の不器用な気持ちを聞いてくれた。
うまく言葉にできなくていっぱいいっぱいだったのに、急かすこともなく、真剣に聞いてくれた。
嬉しいと言ってくれたことが、大げさでなく死ぬほど嬉しかった。
藤ヶ谷との思い出のひとつひとつが、まるで昨日のことのように鮮明に思い出される。
…大好きだという、あたたかくてやさしくて大事な気持ちとともに。
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せと - わたしはこの作品すきで年が変わってからも読んでいます。そして藤ヶ谷くん目線の続編を書く予定だと最後に書かれていたので、それをずっと今でも待っています。どうか作者の形この想いが伝わりますように。 (2019年5月11日 0時) (レス) id: 72bafeba6a (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、素敵な作品をありがとうございました。改めて始めから読み直しコメントさせていただいてます。何度みても涙して笑 作者様お二人の描く藤北が温かくて優しくてあまくかおるという題がぴったりで。毎回毎回癒されました。更新楽しみにお待ちしてます (2016年9月27日 15時) (レス) id: b659f64824 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ひとまずはこちらの完結、本当に素敵なお話をありがとうございました!長文失礼いたしました! (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ドキドキが止まらなくて、コメントする余裕がありませんでした(笑)← それくらい夢中になってはまっておりました!本当に出てきた全員が愛おしく感じるお話でした(*^^*)そして、藤ヶ谷さん視点のあまくかおる告知にすっかり舞い上がっている私ですが笑、→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、遅ればせながら完結おめでとうございました〜!もう、もうもう最後の終わり方が素敵だしにくいし大好きです(;▽;)ずっと読ませていただいてましたが、途中から更新通知きて開くのにドキドキして、読むのにドキドキして、読み終わっても→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:S・ぴーすけ | 作成日時:2016年7月19日 20時