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「藤ヶ谷っ…」
走りながら電話をするとワンコールでつながった。
息を切らせている俺に驚く藤ヶ谷を無視し、今いる場所を聞き出す。
意外かな、そこはバイト先からほど近い、いつもの公園だった。
「おつかれ。どしたの?そんなに急いで」
外灯に照らされただけの暗闇の中、ベンチに座る藤ヶ谷が笑いながらこちらを見上げる。
その横に藤ヶ谷のものとは別に缶コーヒーが1つ置かれていた。誰かと一緒にいたのだろうか。
それには触れず、何度か大きく深呼吸をする。
そのおかげで息は整い、喋れるようになった。ドクンドクンと脈打つ心臓の音の大きさは、走ってきたからなのか、それとも緊張からなのか。
それを見ないふりをするようにもう1つ大きく深呼吸した。ゆっくりと目を開けばいつの間にか藤ヶ谷は立っていて、自分よりも高いところにあるその双眸をまっすぐにとらえる。
…言え。
「藤ヶ谷、俺、…お前の気持ちには応えられない」
瞬間、ヒュッと藤ヶ谷が息をのんだ。
「…知ってるよ。でも俺は、」
「藤ヶ谷、俺、お前の気持ちに応えられないんだ。」
言いかける藤ヶ谷の言葉を遮って同じ言葉を繰り返す。
藤ヶ谷が苦しそうに顔を歪めた。その反応にまるで心臓を掴まれたように胸が痛んだ。
…それでも、ちゃんと言わないといけない。
お前のためにも、…俺のためにも。
「俺、大倉が好き。すげー大事で、あいつを傷つけたくない。」
俺が藤ヶ谷の立場だったら、…こんな傷口に塩を塗るようなことを言われたら、立ち直れないだろう。
だって気持ち悪いって言われただけであのザマだ。みんなに支えてもらって、それでも立ち直れなくなるくらい、苦しむと思う。
俺はそんなひどいことを、大好きだったやつにしている。
その思いに少しだけ怯んでしまい、強く見つめていた視線をそらしてしまった。
…多分、それがいけなかった。
「だから藤ヶ谷、俺がもうお前のことを好きになることはない。だから、さっきみたいなのはやめて…」
「北山」
目線を藤ヶ谷の鎖骨にすえたまま喋りつづけていた俺の言葉を急に藤ヶ谷が遮る。
咄嗟に顔を上げたのと同時、腕がギュッと掴まれる。反射的にその腕を引こうとするとつかんでいる力が強くなった。
「北山は、俺のことがもう好きじゃない?」
「…うん」
「今は大倉くんのことが1番なの?」
「うん。だからこうやって、」
「ねえ、じゃあなんでここに来たの。」
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せと - わたしはこの作品すきで年が変わってからも読んでいます。そして藤ヶ谷くん目線の続編を書く予定だと最後に書かれていたので、それをずっと今でも待っています。どうか作者の形この想いが伝わりますように。 (2019年5月11日 0時) (レス) id: 72bafeba6a (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、素敵な作品をありがとうございました。改めて始めから読み直しコメントさせていただいてます。何度みても涙して笑 作者様お二人の描く藤北が温かくて優しくてあまくかおるという題がぴったりで。毎回毎回癒されました。更新楽しみにお待ちしてます (2016年9月27日 15時) (レス) id: b659f64824 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ひとまずはこちらの完結、本当に素敵なお話をありがとうございました!長文失礼いたしました! (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ドキドキが止まらなくて、コメントする余裕がありませんでした(笑)← それくらい夢中になってはまっておりました!本当に出てきた全員が愛おしく感じるお話でした(*^^*)そして、藤ヶ谷さん視点のあまくかおる告知にすっかり舞い上がっている私ですが笑、→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、遅ればせながら完結おめでとうございました〜!もう、もうもう最後の終わり方が素敵だしにくいし大好きです(;▽;)ずっと読ませていただいてましたが、途中から更新通知きて開くのにドキドキして、読むのにドキドキして、読み終わっても→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:S・ぴーすけ | 作成日時:2016年7月19日 20時