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閉店30分前。
店に残るお客さんも減ってきた頃、藤ヶ谷は相変わらずいつもの席に座っていた。
夕方頃に来たくせに手に持ってるドリンクは全く減っていない。
窓の外をぼんやり眺めている藤ヶ谷を見て、空いたテーブルを拭く俺の手が無意識に止まった。
何やってるんだ、あいつ。
何考えているんだ、あいつ。
その横顔を見れば見るほど分からなくなる。
あいつのことも自分のことも。
「はぁ…、」
小さく溜息を零して俺はカウンターに戻った。
「ん?みつ何してるの?」
客の注文も受けてないのにドリンクを作り出した俺にたまが首を傾げた。
「あー…ちょっといろいろ…」
ついでに売れ残ってたサンドイッチも手に取って再びカウンターを出る。
「 ( 本当、何やってるんだよ… ) 」
そう思いながらも俺の脚は真っ直ぐあいつの元へと向かった。
窓の外を眺める藤ヶ谷。
その横顔は寂しげで、藤ヶ谷が彼女とここに来なくなった時のことを思い出した。
懐かしいな。
数ヶ月前のことなのに何だか随分昔のことのように感じる。
それでも、今の俺達はあの時とは全く違う。
顔見知り程度の関係でも…
ただの友人ですらないのだ。
「どーぞ…」
テーブルに作ったばかりのキャラメルフラペチーノを置けば、一拍置いて、座っている藤ヶ谷が俺を見上げた。
「え…」
まるであの日のように驚いた顔をする藤ヶ谷。
俺はそんな彼の飲み残しを奪い取り、その手に売れ残ったサンドイッチを押し付けた。
「これは…新作とかじゃ…ないよね…?」
手に持ったサンドイッチを不思議そうに藤ヶ谷が見るから段々こっちが恥ずかしくなる。
「…俺のおごり…」
「え…?」
「閉店してからも作業あるから腹くらい空くだろ。あとそれも折角作ったんだからちゃんと飲めよ」
ちょっと早口でそれを伝えれば藤ヶ谷の顔が再び俺を見上げた。
大倉の名前を出してまで帰らせようとしたくせに、俺の行動って矛盾しすぎだ。
それでも――
「ありがとう…」
久しぶりに藤ヶ谷の笑顔を見れて嬉しかった。
そう、思ってしまった。
「おう…」
そう返事をしてすぐにカウンターに戻れば、たまが俺と藤ヶ谷を交互に見る。
わかってる。
わかってるよ。
俺のしていることは変だって。
だけど、身体が勝手にそうしてしまったんだ。
なんて誰に言うでもなく心の内で言い訳をした。
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せと - わたしはこの作品すきで年が変わってからも読んでいます。そして藤ヶ谷くん目線の続編を書く予定だと最後に書かれていたので、それをずっと今でも待っています。どうか作者の形この想いが伝わりますように。 (2019年5月11日 0時) (レス) id: 72bafeba6a (このIDを非表示/違反報告)
SIZUKU(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、素敵な作品をありがとうございました。改めて始めから読み直しコメントさせていただいてます。何度みても涙して笑 作者様お二人の描く藤北が温かくて優しくてあまくかおるという題がぴったりで。毎回毎回癒されました。更新楽しみにお待ちしてます (2016年9月27日 15時) (レス) id: b659f64824 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ひとまずはこちらの完結、本当に素敵なお話をありがとうございました!長文失礼いたしました! (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - →ドキドキが止まらなくて、コメントする余裕がありませんでした(笑)← それくらい夢中になってはまっておりました!本当に出てきた全員が愛おしく感じるお話でした(*^^*)そして、藤ヶ谷さん視点のあまくかおる告知にすっかり舞い上がっている私ですが笑、→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
タヤ(プロフ) - Sさん、ぴーすけさん、遅ればせながら完結おめでとうございました〜!もう、もうもう最後の終わり方が素敵だしにくいし大好きです(;▽;)ずっと読ませていただいてましたが、途中から更新通知きて開くのにドキドキして、読むのにドキドキして、読み終わっても→ (2016年9月21日 22時) (レス) id: 5861ef0622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:S・ぴーすけ | 作成日時:2016年7月19日 20時