触れたい。 (ページ17)

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愛倖「 A！昨日大丈夫だった？」

「うん、もう平気だよ。心配かけてごめんね」

愛倖「そんなの全然だって。

…そういえば、Aが倒れた時、深澤先生かっこよかったんだよ～」

「 …どういうこと？」

愛倖「すぐAに駆け寄ってきてお姫様抱っこしちゃってさ～」

「そ、そうなんだ…。

あとでちゃんとお礼しないとだね」

…少し気を緩めると、またすぐにあの２文字が溢れてしまいそうになる。

昨日お兄ちゃんと約束したけど、これは仕方ないよね。

自分の中で後ろめたさが残るのか、そう何度も何度も言い聞かせた。

職員室の手前側、たしかそこら辺にいたはず。

お礼だけ言ってすぐ去ろう。

「失礼します、２年の渡辺です。

…深澤先生いらっしゃいますか？」

深澤「俺？いるよ」

「あ…昨日は運んでくださってありがとうございました」

深澤「いや、全然。

…うん、顔色も昨日より全然いい」

「 …はい、ご心配おかけしました。…では」

深澤「あっ、ちょっと待って。

…ちょっと俺についてきてくれない？」

職員室に入る前に立てた計画は虚しくもあっさり崩れ去った。

腕を掴まれたまま職員室を出て、向かった先は体育倉庫室。

腕は未だに掴まれたままで、ゆっくりと足を止めてこちらを振り返る。

「 …あの…？」

深澤「 …お前、彼氏いたの？」

「え、ちょっ、…いないですけど」

深澤「じゃあ、誰としたの？」

「 ……っ」

深澤「深澤先生としては生徒指導としての質問、

お兄ちゃんの友達としては心配して聞いてる」

私の中の抑えていた感情が溢れ出す瞬間を感じた。

「……っ、生徒としても、友達の妹としても、

…その質問には答えたくない」

深澤「 ………A、…答えて？」

自分が息を飲む音がはっきりと聞こえた。

いつか呼ばれてみたいと思っていた下の名前を、こんな状況で呼ばれるなんてね。

やっぱりズルいよなぁ、ふっかは。

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