【2j3j】夜明け前のメロウ【短編集】 (ページ46)

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甲斐田side

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ある日のことだった。

仕事へ向かうAを見送った後、憂鬱な面持ちで己の研究資料であふれかえっている離れへと足を運んだ。

いい加減、文書に目を通すくらいはしとかないとマズイよなぁ。

人手不足だなんだといって、上から半ば強制的に押しつけられた仕事だった。気乗りはしないが、だからといって手をつけない訳にもいかず、重い腰を上げてその資料を手に取った。

「どう考えても、僕の担当分野じゃないと思うんだけど……。」

資料には、巷で発症者が出つつある奇病についての詳細が書かれていた。ある特定の魔に襲われた人たちの間で静かに感染が広まっている病気とのこと。
大した興味もそそられず、概要を頭に入れようと流し読みをしていた。

ふと、この病気をうまく使えば、Aを独り占めすることができるんじゃないか、と考えた。

無意識にページをめくる手が早くなる。

完治した患者は居るが、確実的な治療法は見つかっていない。病気にかかったとして、すぐに治る可能性もあれば、一生治らない可能性もある。
感染して死に至るような病気ではないし、確証はないけれど、噛まれなければ自分が感染することもないかもしれない。

読み進めるほど、僕の考えを肯定しているように思えてならなかった。

その晩、帰ってきたAが青ざめた顔をしていた。

帰る途中に、野犬に襲われたらしい。

Aに怖い思いをさせた犬っころに腹立たしさを感じながら、震えるAに寄り添った。同時に君にお願いして、引っかかれたという脚を診させてもらった。

その傷痕に、見覚えがあった。
Aが負ったその傷が、昼に見た奇病の患者が負っていたものと驚くほど酷似していた。

それに気づいたときは、思わず歓喜に震えた。

それにしたって僕は運がいい。
まさか、ここまで事が上手く運ぶとは流石に想定していなかったもの。
空腹を刺激させる為にわざと手を切った。外出は難しいからと仕事を辞めてもらった。

これで完全にAを独り占めすることに成功した。

熱を持ってじくじくと痛む左手を見る。傷が痛む度に、申し訳なさそうに僕の手を取ったAの顔が鮮明に思い浮かぶ。

「ふふ、本当に可愛いなぁ、A。」

気を抜くとすぐにニヤけてしまう口元を手の甲で隠して微笑んだ。

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Layla様リクエスト

このお話、リクエストなかったら一生未完成のまま放置されてたかもしれない。