【2j3j】夜明け前のメロウ【短編集】 (ページ44)

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甘美な罠と外れたタガ【kid】ページ44

［ヴァンパイア(？)］×［ヤンデレ？］

※流血有り
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先日、私は魔に襲われたらしい。
夜だったから真っ暗で見えなくて、忍び寄る気配に気づかなかった。強い力で何かがぶつかってきたかと思えば、いきなり脚を引っかかれて、最初は野犬にでも襲われたのかと思った。

そんなことがあったから、元々ひどかった晴くんの心配症がさらにひどくなった。
事実、あの日から一歩も外に出させてもらえてない。

襲われたとはいえ、次の日にも普通にお仕事はあったからいつものように朝起きて支度をしていたら、晴くんに泣いて止められた。大きな声でうるさいし、あまりにも縋(すが)りついてくるから根負けして休むことにした。

正直、晴くんに心配されるのは嬉しような恥ずかしいような気がして嫌じゃないけど、そこまで心配する程の事件ではないとも思っていた。

だけど、その判断が間違ってなかったことが、今なってようやくわかった。

あの日から、体調が徐々に悪くなっていった。
陽の光を浴びると疲労感を覚えるようになった。お腹が空いているというに、身体は食べ物も飲み物も受け付けてくれなくなった。
そして、それと同時に変な欲求が私を支配するようにもなった。

晴くんが膝をついて、へなへなと座り込む私にわざわざ目線を合わせ、心配そうに私を見つめる。
きっと、私は今ひどい顔をしているんだろう。

「A？……大丈夫？」

大丈夫な訳がない。だって、私は今、いま、

──── 晴くんを食べたくて、たべたくて仕方がない

おかしい、こんなの絶対におかしい。普通の人間じゃない、常軌を逸してる。
それなのに私はそんな理性に反して、私を支える晴くんのその腕に、さらけ出してる首筋に、噛みつきたい衝動に駆られてやまない。

「だい、じょうぶ、だから。……ッ、離れて欲しい。」

「そんな、すごい汗かいてるのに、放っておけるわけないでしょ！」

それはその通りなんだけど、だとしても今だけは放っておいて欲しかった。
ささやかな抵抗として彼の胸を押してはいるが、お腹が空いてまともに力が入らないせいか彼の身体はビクともしない。

「どうして、そんなに嫌がるの？」

晴くんの悲痛な声に、身体が強張る。眉を寄せて哀しそうな顔をして、彼が私の額の汗をハンカチで拭おうと手を伸ばした。拒もうと顔を背けたが意味を成さず、その手が私に触れる。