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健「2人揃って拾われた頃には、取り返しがつかなくなっていた。
俺は本当の名前を知らないし、女は組織に染まって、マリさんに囲われて、俺の存在を忘れた。あれだけ俺に依存してたのに、あっさり俺の存在を切り捨てたんだよ。
マリさんの数多い愛人の仲間入りを果たして、借金取りに追われない金のある生活を手にした途端、この有り様だ」
あ「………健人、」
健「俺はその女に、脆い精神ごと囚われたまま。出口のないトンネルにいるみたいだ。
事あるごとに、マリさんは、あの女の存在を俺にちらつかせて思い知らせてくる。俺の存在を縛ろうとする。
あの女との繋がりを失う勇気もない俺は、マリさんの言いなりだ」
「 虐 待 の怖いところは、身体的なダメージとともに精神的なダメージを死ぬまで負うことだよな」と、健人は複雑な表情を浮かべたままで言った。
健「俺は……こんなんだから。終わりのない悪夢に絶望はするけど、終わりにすることは出来ない。
………今日のは聞かなかったことにしてやるから。お前もあんまり、そういうことは軽々しく口にしない方がいい」
私は何も言えなかった。
言葉にならない想いがこみ上げてきて……それは涙になって頬を伝う。
ごめん、と。
何度も心の中で囁いて。
出口まで送ってくれた健人に会釈して、夜の都会へと踏み出した。
まばゆいネオン。
遅くまで働いているサラリーマンが、くたびれた表情で行き交う。彼らの仕事納めは今日なんだろうか。
ビル街はきらきらと瞬く。
東京は眠らない街だ。
そう言えば、明日は大晦日だ。
お蕎麦でも買っておこうかなと思い、近くのスーパーに足を踏み入れた。
カゴに蕎麦を入れた。ついでに近くにあったお餅も添える。年が明けるんだ。
レジで精算を済ませて、夜の街をのんびり帰って行く。
こうしている時は、何もかも忘れられた。
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作者名：北斗七星 | 作成日時：2017年3月23日 15時
