◆You◆ ページ12
ジンさんが出ていった部屋で、私は一人で泣きに泣いた。
なんで泣いてるのか自分でもちょっと分からなかったけど、たぶんジンさんが私を好きだって言ってくれて、私はそれに応えられないって思ってるのが辛かったんだ。
芸能界に片足突っ込んだ職業してるから、わかってる。
スキャンダルは、彼らの相手の背景までふくめてネタにしてくる。
私がジンさんの隣に立つのは、絶対駄目だ。
警察沙汰を過去に2件起こしてて、その被害者なんて格好の餌食だって、馬鹿でもわかるって。
だからせめて、セ フレならって。
それも十分駄目でしょって今ならわかってんだけど。
口が勝手に欲望を吐き出しちゃって。
彼女じゃないなら、大丈夫かなって。
もし何かあっても、ばっさり切り捨てられるくらいのポジションだったら。
もう一度、いや、ジンさんが私に飽きてくれるまで、抱き合っていられるんじゃないかって。
あさましい。
それからお風呂に入って、シャワーを浴びながらまたおんおん泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて、体中の水分が目から出てったんじゃないかって思うくらい。
濡れた髪もそのままに、タオルドライの頭のまんまソファでぼーっとしてたら、ピロンってカトクの通知音。
スマホどこに置いてたか忘れてたから一瞬探した。
そしたらソファの背もたれと座面の奥に挟まってて、なんでこんなとこに、って首を捻りつつ。
「諦めないでよ。俺のこと」
「俺もAを、諦めないから」
涙ってどんだけ出るの。
体の水分全部使えるの？
私の後ろ暗い過去は、私のせいじゃない。
声を限りに叫びたいけど、それが通る世界じゃないよ。
私は返せる言葉を持たないままに、ジンさんがくれたメッセージを何度も、何度も読み返した。
きっと既読が付いて、私が読んだのジンさんに伝わってる。
イエスも、ノーも返事できない私から送れる返事はその「既読」の文字だけ。
それでも、
それだけでも伝えられることが、
ただ嬉しかった。
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作者名：フネ55
| 作成日時：2023年5月17日 13時
