嘘つきと恋 (ページ9)

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episode9 ページ9

*You side

「A」

御手洗の前から動けずにいた私の名前を呼んだのは里香。

それに釣られるように振り返り、私の姿を捉えたのは...

「洋平...」

聞こえない位の小さな声で吐き出した名前。

私の姿を見て、驚いた彼の表情は冷たい瞳へと色を変える。

「Aこっち来て」

動こうとしない私を見かねた里香が駆け寄ってきて、逃がすまいと腕を引っり席へと誘導される。

近付く距離に私の心臓は飛び出そうになった。

「もしかして、里香ちゃんが言ってた〈友人〉って...？」

「はい、彼女です」

立ってるのがやっとな私を冷たく見る洋平の視線が怖くて俯いたまま何も出来ないでいた私の頭に降りかかる声。

「はじめまして」

「[Alexandros]のボーカル、川上洋平です」

「よろしくね」

顔をあげれば笑顔の洋平が私に手を差し出していた。

里香が洋平の言動に困惑する中
私は1人で納得していた。

なかった事にしたんだ。

私との関係を。

予想もしてなかった事だったけど
理解はできる。

こんな最低最悪な元彼女なんて記憶から抹消してしまいたいに決まっている。

そうさせたのは他でもない私だから。

差し出された手を取ることは出来なかった。

酷い事をした事に変わりはないから
触れたら行けない気がした。

「はじめまして、里香の友人のAです」

必死に取り繕ってなんとか声を絞り出した。