お弁当家族。 (ページ2)

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男の人は席に着いた

私の調理するジュワ〜という音を聞きながら息を吸って幸せそうに顔をほころばせる

「ベーコンのいい匂いがするね」

『そうですか』

「うん、幸せな匂いだ」

『換気扇効いてないのかな』

「幸せの匂いは換気扇じゃ吸い取れないよ」

『ベーコンの匂いは吸い取ってもらわないと困ります』

「全く、敵わないなあ」

この男は

お母さんの再婚相手。

1年ほど前に紹介されて数ヶ月前にうちへ越してきた

『まだ5時半だよ』

「早いね」

『まだ寝てていいのになんで起きるの？』

「ん？早起きは三文の徳だからさ」

そう言って男は席を立つと私の隣に並んで料理の様子をじっと眺め出す

これもコイツが毎日やってくる行動の1つ。

皿出しや洗い物を手伝ってくれたりもするから文句は言えず、余計タチの悪いのなんの。

「佳子ちゃんは何時起きなの？」

『4時半』

「偉いね、そんな早起きしてお弁当作るの」

『だって自分で作らないとお弁当ないもん』

「お母さんは…いや、僕が作ろうか？」

『いい、自分で作る。お弁当係だから』

「…係があるの？」

『うん』

「僕もなんか役に立ちたいな、何か僕に係任命してくれない？」

『お母さんを笑顔にする係』

「もっともだ」

男は「ははは」と小さく笑ったあと、お湯を沸かして茶を淹れだした

私は何も言わず完成したお弁当おかずを平たい皿に並べる

すると2階から物音がして、しばらくするとお母さんが降りてきた

母「ふぁあ……おはよう…」

『おはよう〜』

「おはよう」

母「あら、また2人で料理してるの？」

「僕は見学してただけ」

『この人はお茶汲み係』

母「この人じゃなくてお父さんでしょ？」

『…』

「はは、いいんだよ」

ふん、と目を逸らしてまたお弁当に身体を向ける

粗熱が取れたら予め冷ましておいたご飯を詰めて、野菜炒め、ベーコン巻き、だし焼きたまごの順番に詰めていく

うん、我ながらいい出来！

『そういえば今日部活の後バイトだから遅くなる』

母「初バイトね」

「迎えに行こうか？」

『大丈夫』

「寒いし暗いよ？」

『いいの』

「そっかあ、なんかあったら遠慮なく呼んでね」

私は髪を整えに洗面台に行く

母「佳子はもうあなたの子供でもあるんだから、叱ってもいいのよ」

「佳子ちゃんはいい子だから叱る時がないよ」

母「……そう。和正さんはお父さんって呼んで欲しくないの？」

「呼ばれたいけどね、いいんだよ」

……聞こえてるっての。

絶対絶対お父さんなんて呼んでやらないんだから