初恋列車の切符は片道。/ シトロン ページ9
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「 Aはどこに行きたいネ! 」
両腕に抱える量の旅行雑誌の表紙には
北海道 、京都 ___ シトロニア、には触れないでおこう 。
監督業で仕事に追われ、先々週に大千秋楽公演を終えたことにより少し余裕が出てきたこの頃。
彼氏であるシトロンくんに旅行に誘われたのだ。
「 Aとならどこまでも行けるヨ 」
突然真面目な声で囁いてくるこの異国の王子様には
私は振り回されてばかりで、今だって胸がときめいてドキドキしているのは私だけだろう。
顔を赤くして慌てる私を見て嬉しそうに微笑んではまた幼い子供のように理解しきれていない日本語で声を上げながら、楽しそうに雑誌を開く。
「 海にも山にも行きたいヨ 」
『 とりあえずどっちか決めよう 』
2泊3日、二人きりの時間はこれしか用意できなかった。真澄くんは相変わらずだし、次の公演のこともある。だからこそ、この3日間が愛しい。その3日をどれだけ二人の色で彩るかを考える今の時間も。
「 そんなの無味万代ネ 〜 !」
『 無理難題 、?』
彼は表情をコロコロと変えながら口元に手を当てて悩んでいる。こうして見ると本当にかっこいいのだ、否普段の彼も好きなのだけど。
私にだけにしか見せない表情なのだと思うと、
なんだかこのままでいたいなと思う。
____私にも甘えたい時がある 。
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「 山も海も
____Aも独り占めできればいいヨ 」
そう呟いたシトロンくんの声が掠れて、私の心拍数が一瞬で高まる。
きっと私たち 、また予定たてられなくて
初デートも延ばし延ばしで 。
またこの旅行も延びちゃうだろうけど 。
伸ばされた両手に指を絡めて
その胸板に身体を預けて
また初デートの空想列車を描いて
二人の片道切符で帰りたくないね 。
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