検索窓
今日:3 hit、昨日:8 hit、合計:26,149 hit

ロンリーハート・ジャーニー / 雪白東 ページ32

.

.

「ごめんなさい、まさかあんなことになるなんて……」

「大丈夫だよ、仕方ないことだし。ほら、全然間に合ってる」

でも、出迎えてくれる君の顔も見たかったな?

彼はよく意地悪を言う。ただでさえこんな優しい読めない笑顔、本当か嘘かわからなくなる。
ほっぺをつままれ、それこそ狙ったように本気の声で。

「そんな暗い顔されちゃうと、添い寝屋に戻りたくなるな……?」

ああやだ、歌舞伎町のカンパニー所属の添い寝屋は寂しそうに私をからかってくる。ほんとに意地悪だ。
……そういえば普段はこんなに言葉数多かったっけ、それも今度聞くことにしよう。

ああ、どきどきする。こんなに近いのは彼が添い寝屋をしていた時以来初めて。横でコートを着て、見守るように微笑んで。

「どこへ行こうか、君の行きたいところだよね?」

「うん、まずはね……」

ショッピングモールを走り回ってはアドバイスや「似合ってるよ」と褒めてもらい、呑気に鼻歌を歌いながら、いつの間にか時計の針はぐるぐると回っている。もう夕焼けが群青に飲み込まれる寸前。

「ここまでしか行けなくてごめんね、明日からまたレッスンがあって。いい買い物はできた?」

「はい、付き合ってもらってよかったです。とても」

「そっか、ならよかった。じゃあ……」

帰ろうか、と紡ぐ唇を塞いでしまった。でも、またしばらく会えないからこれくらい。
照らされた長い陰は繋がる。真冬でたった二人しかいない浜辺。海の風が寒い、でもそれ以上に、心が寒いんだ。
唇を離して、それから、背中に手を回した。

そこら辺で、自分のやったことに気付いて、慌てて離れる。

「ごっごめんなさいあの!」

「Aちゃん、まだ下……!」

ちらりと見えた赤い顔、白い大きな手でも口元しか隠しきれていない。
一気に空が暗くなって、群青に完全に染まりきる。でも片方の手は、私の背中に確かにあった。そこからじわじわ、あたたかくなっていく。

「……公演。また、見に行きます」

「うん、待ってるよ」

冬は幕明けてほしくない。雪みたいに解けそうなくらいあなたが冷たくて、ふわりと消えていきそうで。
今日、やっと安心した。あなたはまだ、私の寂しさを解かしてくれる。

.

▽→←▽



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.0/10 (42 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
33人がお気に入り
設定タグ:A3 , A3!
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:いとゆ x他6人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2017年9月30日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。