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「 寄りたいところがあるんだけど、いいかな 」
帰りがけ、紬さんはそう言ってわたしの手を引いた。手を繋ぐのも初めてだよ、なんてドキドキしてたのは案の定。
日も落ちて、辺りは淡い紺色に染まっている。深海に溺れている感覚だ。息も苦しいくらいドキドキしてて、まわり全部水で満たされてるみたいにわたしの身体だけがあつくって。足元がふわふわ、不思議な気分。
紬さんが向かっていたのは、街を抜けた先にある小高い丘だった。柵がめぐらされていて、その下を覗き込めば少し深い闇が目に入る。落ちたら、しんじゃいそうだけど。そんな場所に並んで立ち、紬さんは真っ直ぐ先を指さした。
そこには空を埋め尽くす無数の星たち。ちかちかと光っては街を包み込む、柔らかい光だ。紬さんはその星々を見つめたまま、小さく呟いた。
「 ここの景色ね、昔から好きだったんだ。丞とよく一緒に見にきた。大好きな景色 」
「 _____綺麗です。すごく、すごく 」
「 ……気に入ってもらえてよかった。俺の大好きな場所、Aちゃんにも知っていて、好きになって欲しかったから 」
好きなものを共有できるって、素敵な事だと思わない?ほら、恋人っぽいし。
そう言って目尻を下げる紬さんはありえないほど、輝いてる。今だけは星に失礼かもしれないけど、その他のすべてが霞むくらい。紬さんだけが、綺麗だ。
映画を見て、カフェに行って、夜景を見て。
ああ、なんて普通のデート。これ以上ないくらいのテンプレート、平凡すぎるデート。私の夢が、叶ってる。この人が、叶えてくれてる。その人の隣で笑えて、泣けて、幸せになれて。こんな一日も自分も、まるごと幸せの魔法にかけてもらったみたいだよ。
「 ……今度は何処に行こうか。Aちゃんの好きな場所にも行ってみたいな 」
「 __________こん、ど? 」
「 うん。いつになるかは分からないけど、またこうやって出掛けたい。今日、すごく楽しかったから 」
耳を掠めて、それから消える。わたしを幸せで満たす、あなたの魔法の言葉。
それを全身で受け取れるわたしは、いったいどれだけ幸せなんだろう。ほろり、涙をこぼす私を見つめて、紬さんはまた笑った。
また、今度。また今度。
この夜景に会いに来よう。
重なる手のひらと重なる鼓動。
初めてだらけのわたしたちを、星はいつまでも照らすのだ。
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