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君のために / 七尾太一 ページ20



何度も何度も、鏡の前の自分の姿を確認する。

これなら恥ずかしくないはずだと自分に言い聞かせ、思い切り頬を叩く。ぱちん、と景気のいい音がして、ヒリヒリと痛む頬が何となく心地いい。部屋を出るまでに三回、鏡の前で髪を整え、服装を正し、寮を出るまでに三回、髪を整え、服装を正す。流石に、気を遣いすぎて幸に「早く行け」と怒られてしまった。彼に選んでもらった服装なら大丈夫だ。自分を勇気づけるために、大きな声ではっきりと「いってきますっす!」と叫んだ。

今日、七尾太一は彼女との初デートなのである。

緊張と興奮と、何だかよくわからない感情が入り交じって、ゆっくりと歩くことが出来ず、走り出してしまう。彼女はどんな服装で来るのだろうか、どんな髪型で、自分のことをどう出迎えてくれるのだろうか。色々な期待や希望を胸に、待ち合わせ場所まで走った。何だか、疲れを知らない体になった気分のようで、ずっと走れそうであった。待ち合わせ場所が近づいて、少し息を整えながら歩く。心臓音がこだまして、自分のなかで響いてくる。彼女はまだ来ていない。

自分がとんでもなく、緊張していることに気がついた。デートだ。大丈夫、彼女と一緒に楽しめればそれでいいのだ。変なことは考えないと決めたはずなのに、浮かぶのは余計な思考ばかり。煩悩を消し去って、ひとつ心を落ち着ける。落ち着くはずもないのだが、深呼吸だけでもと思い、ゆっくりと息を吸ってそのまま吐き出す。吐き出す息が、震える。

どこにいるか分からない彼女を探して、きょろきょろと周りを見渡す。すると、ひとりの女性と目が合い、ぱぁと顔を明るくさせた。そう、彼女が七尾太一の彼女である。同じ歳であるとは思えない、落ち着いた様子と大人びたその姿に、七尾は惚れたのだろうか。彼女が、自分のことを好きだというのも未だに信じられない。

「お、お待たせしたっす!」

びしっと敬礼をし、彼女の前に立つ。緊張のあまり、不思議な動きをする彼が面白いのか、彼女はくすくすと肩を震わせている。自分の何がおかしいのか自覚がない彼は、不安そうに彼女の顔を見つめる。それがまた子犬のようで、可愛らしい。はっとして、彼は「今日はどこに行きたい?」と彼女に問いかける。自分の行きたいところより、彼女の行きたいところに行ったほうがいいと昨日、攝津万里に教えて貰ったのだ。本当かどうかは、分からないが。

「うーん、太一くんどこ行きたい?」

まさかの質問返しに、答えに詰まる。

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作者名:いとゆ x他6人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2017年9月30日 21時

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