ep144 ページ3
一歩――――
近付く足音に私は後ろへと退いた。
「記憶を消した犯人が君自身だろうと、それにドストエフスキーが関わっていることに変わりはない」
「その事実が何になるんです……？」
私は自分が何故、如何に記憶を消したのか……何も判ってはいない。それもその筈。それらの記憶すらも自分で消し去ったのだから。
「実際、太宰が云うには今までも何度か記憶が戻ったことがあるらしいじゃないか。
それらも引き金は凡てドストエフスキーだ」
「……仰っている意味が判りません」
「嘘だね」
そう言い放ってまた一歩近付く。
「君は気付いている筈だ。この感覚の正体に」
肩がトン、と壁に触れ、振り返れば退路は無し。
「――っ……！」
咄嗟に顔を上げれば乱歩さんは眼前へと迫っていた。
――逃げ場は、無い。
「僕はドストエフスキーを
そう、目の前に居るのはドストエフスキーではない。江戸川乱歩だ。
頭ではそう判っていても決して和らぐことのない圧力。
「君は僕に助けを求めておきながら未だ記憶を取り戻すのが怖いだけだ」
そう、私は私の記憶を消した。きっとそれが最善の方法だったからだ。
ならばそれを取り戻すことは必ずしも有益とは限らない。
「君は今まで生きてきた君という人格が揺らぐのを恐れているだけ」
記憶を取り戻したら私は私でなくなるかもしれない。
怯える私の肩に彼の手が触れる。
「……なんで……っ怖い……」
「嗚呼、そうだろうね……でもその原因は君自身だ」
触れた手は鋭利な刃物のように冷たく、錨のように重い。
床へ崩れ落ちた私と視線を交えるようにしゃがみ込んだ彼。その瞳は狂気を孕んでいて誰かを彷彿とさせる。
「……っ、来ないで」
思わず顔を覆った私の腕は強引に剥がれた。
「目を背けることは赦さない」
“目を背けてはいけませんよ。これが貴女の罪です”
乱歩さんの声と重なって響くのはドストエフスキーの言葉。
「僕からは逃げられない」
“真逆、逃げられるとでも？”
全身を巡る血液が凍えるように冷たい。
息が吸えない。気道が締まる。
頭痛がする。
熱い……否、寒い。
恐怖か悪寒か……ガタガタと震え出した私に彼は云った。
「だから云ったじゃあないか――……」
“貴女は必ず帰って来る。それは必然だと”
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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます！応援とっても嬉しいです！これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (
レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね！これからも頑張って下さい！更新楽しみにしております！…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか？ (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか！そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました！！ヤバかったですね？？この先の小説の続きも気になります！！ (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね！本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ギラッフェ
| 作成日時：2018年8月14日 9時
