happIness*2-2 ページ2
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「ただいま、」
「、」
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リビングの入り口から聞こえた声に、そちらを振り向く。
さっきまでテレビに映っていた彼が、
ヘアメイクもそのままに、そこに立っていた。
にっこりと笑って手をゆらりと振る、
何でもないみたいに笑うのは、私が得意なことだった。
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「寝てるかと思ってた」
「、」
「今日は何してたの」
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テレビを指さすだけの私を見て、もう翔くんは何も言わない、
彼の“ただいま”に対する“おかえり”の声が聞こえないことで
今日も私の声は戻ってこなかったのだと察して、
私の口元をじっとみてそれを読み取ろうともしなくなった。
もちろん、最初のように「喋って」と言うことも。
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声が出ない私は、彼の好きな“私”から、遠ざかってしまうのだろうか。
最近、そんなことばかり考えるようになってしまった、
煌びやかな向こう側の世界で、私の代わりがいるように、
私がいなくても成り立つように、
こちら側の彼の世界にも、きっと私の代わりがいて、
私がいなくても他の誰かと成り立つんじゃないかって。
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そんなことを考えては、そんなことないと言い聞かせて。
だって、私は愛されてる。
考えなくたって、そんなのわかる。
手を伸ばせば触れられて、近づけば抱きしめてもらえて、
目を伏せればキスも、強請ればそれ以上だって。
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「腹減った、なんか食うもんある？」
「、」
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いつもみたいに穏やかに言葉を紡ぐあなたに私は笑いながら頷く。
二度とあなたに悲しい顔をさせないように。
頭の中を占める不安や恐怖なんて見ない振りをして、
だってそうしないと、きっとあなたのことを困らせてしまうから。
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本音は全部、黒いノートに吐き出して、
それでさよなら。
それは全部、私だけの秘密。
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キッチンに向かう私に笑いかけて、彼がバスルームに消えていく。
それを見送って、笑顔の仮面を溶かす。
知ってる、彼が、笑いながら絶望していることを。
毎日、毎晩、毎朝、改善する気配すらない、
戻ってこない“私”を見て、瞳を揺らしていることを。
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気づいている、気づいているから、
私は知らない振りをして、大丈夫だと言って、笑って誤魔化す。
泣けばきっと彼も泣いてしまうから、
私が絶望した分、彼もそうなってしまうから。
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それしか、繋ぎとめておく方法が、分からないから。
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