happIness*1-23 ページ23
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事務所の目の前までタクシーで行くのが怖くて、
少し手前で降ろしてもらう。
速足で歩いて、そのまま入り口をくぐった。
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受付に警備員の人が立っていて、
ああ、と思いながら鞄の中に手を入れる。
キーケースの中に入っている掌サイズの小さなカードは
私の顔写真と名前が入っていて、セキュリティ強化のために
これを持っていないと事務所に出入りできない仕様になっていた。
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無言でそれを提示すると、
抑揚のない声で「お疲れ様です」と言われて、
その先へ進むことを許される。
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『一番手前の会議室に入っててください』
「…うん」
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いくつか並んでいる会議室の中で
一番こちら側にある部屋の扉を開けて中に入る。
しん、としたその空間に一人。
初めて入った場所で電気の場所も分からず、すとん、と
壁によりかかってしゃがみこんだ。
手に持ったスマホは、黒川さんとの繋がりを示すように
明るく光っている。
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「くろかわさん、きこえてる？」
『聞こえてますよ、入れましたか？』
「うん、電気の場所わかんない」
『えっ…そんなことあります？』
「そんなことあった…はやく来て」
『もう着きますから』
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駄々をこねる子どものようにそう言うと、
まるで父親のように答えてくれるその声に安心して、
ふう、と長い息をつきながらそっと目を閉じた。
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しばらくしたらパチリ、と伏せていた周りが明るくなって、
その光につられるように顔を上げると、
丁度下を向いた黒川さんと目が合ったところだった。
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「うわっ、びっくりした…」
「黒川さん」
「なんて所にいるんですか、椅子あったでしょう」
「暗くて見えなかった」
「というか電気ここですよ」
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電気のスイッチは扉のすぐそばにあって、
明るくなった会議室には、当然、机と椅子がいくつか綺麗に並んでいた。
いつもスーツ姿の黒川さんは、
白いシャツにジーンズ姿で、一目で家にいたんだとわかる恰好で。
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「お待たせしました、座ってください」
「ん…」
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だけど、優しく響く声は、
いつも聞いている黒川さんの声で
安堵からか泣きそうになってしまう。
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「話せますか、」
「うん」
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ゆっくりと、今あったことを思い返しながら
口にしていく、言葉にしたらぶわりと恐怖が蘇ってきた。
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