happIness*1-21 ページ21
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劇場を出たら、すっかり陽も落ちていて、あたりは暗くなっていた。
思わぬ幸せに、心をふわふわさせながら、
大通りでタクシーを捕まえようと、劇場近くの坂を下りていく。
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耳に小さなイヤホンをさして、
もうすぐレコーディングする仮歌を聴きながら歩いて、丁度、坂を下り切った所だった。
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後ろからグッと肩を掴まれた、
無意識に身体が飛び上がって、
はく、と動かした口からは声が出ずに、喉の所で音が止まった。
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後ろを振り向くのが怖くて、
反射的に足を前に踏み出すけど、
肩を掴む手の力が強くて、それも叶わない。
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「な、に」
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ようやく出た声は、震えていて、
後ろを振り向くのと同時に、暗闇にいる誰かにイヤホンを引き抜くように外された。
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「工藤さん!」
「、」
「ちょっと今時間いいですか?!」
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暗闇の中にパっと明るすぎるくらいの照明が射して、思わず眉を顰める。
そこにいたのは知らない顔の男の人2人だった。
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「週刊文教の者なんですけど〜」
「、」
「工藤Aさんですよね?」
「は、い…」
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名乗られた時点で、しまったと思った。
最近周りをうろついていたのを知っていたけど、
プライベートの夜遅くまで私のことを追うほど知りたい情報って何だろうか。
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「今日なになさってたんですか〜?」
「出かけてましたけど」
「そうなんですね〜…今お付き合いしてる方います?」
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その言葉を聞いた瞬間、吐きそうだ、と思った。
文脈が全く合っていない質問に、口を噤む、
笑ってみたけど、頬の辺りが引きつって上手に笑えていない自覚がある。
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「工藤さんの彼氏が誰なのかみんな気になってるんですよ〜」
「、」
「あ、そう言えばこの近くでミュージカルやってますよね〜」
「…」
「工藤さんと仲いい方出てませんでしたっけ〜?」
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見当違いな方向の質問を矢継ぎ早に投げつけられて、
ぎゅ、と掌を握りしめる、
照明の後ろに小さなカメラを持った人がもう一人いることに気づいて、
さっと血の気が引いて行く、これ、撮られてる。
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「ごめんなさい急いでて」
「え〜?今日お休みなんじゃないんですか?」
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映像として残るなら、下手に口を開くわけにはいかない、
目の動きも、表情も、見る人が見れば、
うそも、隠していることも、バレてしまうだろう。
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どうしよう、逃げなきゃ。
全部剥がされる前に、はやくこの場から、逃げなきゃ、
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