happIness*1-3 ページ3
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「聞いて損した」
「はは、大事じゃん」
「うーん、まあ、無いに越したことはないけど」
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立ち上がってキッチンに向かう彼を目で追いながら、
ソファにごろん、と横になる。
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「えっ、やっぱりあると嫌だ?」
「え?キス?ああ、まあ、いい気はしないけど」
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ひょい、とソファの背もたれから顔を出して、
キッチンでマグカップを洗っている彼に聞いてみる。
そういえば、やんわりと心配しているようなことは言われたことはあるけど、
それ自体が嫌だと言われたことはなかった、
今までそんなこと一度も考えてこなかったことに気づく。
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「ふーん…」
「ふーん、って…、だってその期間俺よりしてるじゃん」
「そんなことないでしょ」
「あるわ」
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そんなこと言う割には、あまり気にした様子には見えない、
同じ世界で仕事をしているから、
そういうことについては、仕方がないことだと割り切ってくれているんだと思う。
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1公演に5回すると仮定して、昼公演と夜公演をこなせば10回か…
確かにそんなことあるかもしれない、と
ぽすん、ともう一度ソファに身体を預けながら考える。
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水の音が止まって、いくつか音がする。
ふっと目を閉じたら一瞬静かになった空間に、
時計の秒針が動く音が響いて、なんて平和な時間なんだろうと思った。
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「こら、寝るならこれ片付けて、向こう」
「ん〜…」
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急に喋らなくなった私が、眠くなっているのだと思ったようで、
翔くんが上から私を覗き込みながらそう言う。
ぱちり、と目をあけて、その体勢のままぐん、と腕を伸ばして伸びをした後、
はあ、とため息を吐いて彼と目を合わせる。
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「…なに」
「動くの面倒臭くなっちゃった」
「…」
「翔くん」
「……、ああもう、はいはい、ちょっと待ってろ」
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そう言い残して私の頭を一回撫で、洗面所の方へ消えていってしまった彼の後ろ姿を見送って、
ソファの上で上半身を起こす。
ぺたり、とラグに足をつけて立ち上がり、資料をファイルに仕舞った後、
そのまま寝室へ向かってベッドへもぐりこんだ。
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