happIness*1-13 ページ13
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「…おはよ」
「おー、おはよ」
「翔くん、早起き…」
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その日はレギュラー番組の収録で、
迎えの時間も同じくらいのはずなのに、
私が起きた時には、隣で眠っていたはずの彼の姿がなかった。
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キッチンでコーヒーを入れていたらしい彼が
ふは、と欠伸をして目をこする私を見て、
楽しそうにくすくすと笑う。
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「いや、昨日アンケート書かずに寝たの思い出してさ」
「…そっか」
「眠そうだな(笑)」
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その言葉に、小さく頷いて、
何度目かの欠伸をしながら、そういえば、と口を開く。
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「今日、夢に翔くん出て来た」
「まじか、お邪魔しました」
「…なんかずっと焼き肉食べてた」
「わんぱくかよ」
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夢の中に彼が出てくることは、あまりない。
大体、私の精神状態を暗示するような悪い夢の時に登場するから、
楽しい、普通の夢の中で、翔くんに会えたのが驚きだった。
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「それで私にカルビ勧めて来た」
「Aが全然食わないからじゃん?」
「あとナムルとご飯」
「食べたの?」
「たべた」
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私と机を挟んだ状態で向かい合って座っていた翔くんは、
あれも食べなさい、これも食べなさい、と勧めて来て、
それらを口に運ぶ私の様子を見て、満足そうにしていた。
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「だからお腹いっぱい」
「いや、夢だからそれ」
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あれはデートだった、とぼんやりと思う。
四方が壁に囲まれているような場所じゃない、
隣のテーブルの人の顔も、そしてその人達の会話も聞こえてくるような
そんな場所で、2人で向かい合っている。
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2人でどこかに出かけたいと彼に言ったことはない、
そしてそれが、できないことだということも分かってる。
いくら"偶然"でも、それらしく撮られて嘘を書かれてしまうと言うことは、
もう、嫌と言うほど経験して身に染みていた。
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夢の中で、翔くんとデートしていた私は、
どれだけ不特定多数の目に触れようとも、
あの空間にいた私は、とても楽しそうにしていた。
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家にいる時みたいに、くだらない話をして、
2人で笑って、
そして、次のデートの約束をして。
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普通なんて、私たちが生きる世界の中には
どこを探しても転がってなんかいないのに、
そんな、"ないもの"を探しているようで、
夢の中の"わたし"を見ていた"私"は思わず笑ってしまった。
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ないものをどれだけ探したって、見つからないのに。
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