12話 ページ13
「一週間ぶりだね。久しぶり」
「お久しぶりです」
ここ一週間は考査期間だったため、シフトは入れていなかった。
このビルは施設の真反対にあるし、通学路で通ることも無い。
「出前やコンビニだけではなく、新聞配達のバイトまでしてるのか」
男の人は私が手渡した朝刊に目を落として、そう呟いた。
深い藍色の浴衣の袖が風に揺れてゆらりと靡く。
私のパジャマは毛玉のついた小学生の頃から着てるやつだけど、この人は毎晩これを着て寝てるんだろうか?
ヤ〇ザってオシャレだなぁ。
いやいや、感心してる場合じゃない。
カゴにはまだ沢山新聞が入ってる。
「じゃあ、私行きますね!」
「あぁ、ちょっと待って」
仕事に戻ろうと踵を返すと、腕を握られて立ち止まる。
どうしたんだろう。新聞に広告が入ってなかったとか?
販売所で広告を新聞に折り込んでから配達する為、もし広告が入ってなかった場合には一度販売所に戻らないといけない。
ここから販売所は少し遠い。
どうしよう、と不安がる私を安心させるように、穏やかな声が静かなビルに響き渡る。
「実は今、朝の散歩に出かけるところだったんだ。一緒に行ってもいいかい?」
男の人はとにかく素敵で、紳士だった。
仕事まで手伝ってくれたのだ。
本当はダメなことなのでもちろん断ったのだけれど、
男の人はついでだからと問答無用で新聞を配り歩いてしまった。
おかげで仕事はいつもより倍以上早く片付いた。
「ありがとうございます! お兄さんのおかげで早く終わりました」
「夏油だよ」
「え?」
「夏に油と書いて、ゲトウ。私の名前だ」
夏油さん。それがこの男の人の名前らしい。
折角名乗ってくれたのだからこちらも名乗らなければ、と「私は三日月Aです」と言えば、可愛いらしい名前だねと言ってくれた。ホストみたいなこと言うなぁ。
もう一度お礼を言って帰ろうとすると、夏油さんはまだ暗いから途中まで送っていこうと言ってくれた。紳士だ。
鳥の鳴き声しか聞こえない静かな道に、自転車の車輪が回る音と二つの足音が響く。
「君は、私が怖くないのかい?」
「え?」
ポツリ、と夏油さんは独り言のようにそう言った。
怖い?何故?夏油さんは優しい人なのに、と頭にハテナを浮かべる私に、夏油さんは続ける。
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或 - 更新止まっちゃってる感じですかね…待ってます(泣) (2021年3月29日 23時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - 続き楽しみです! (2021年3月10日 21時) (レス) id: f345edd9e1 (このIDを非表示/違反報告)
或 - この作品の夏油さんに沼りました!更新楽しみにしてます!!! (2021年2月27日 20時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
蛹(プロフ) - 緑の白猫さん» コメントありがとうございます!頭が切れて策士で、人畜無害な笑顔で着々と夢主の外堀から埋めていく夏油傑大好きなんですよ〜!!!ぜひぜひ嵌ってください (2021年2月27日 16時) (レス) id: 3eead30ed0 (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - やっべぇこの作品の夏油さんに嵌まりそう。てか嵌まらせて下さい← (2021年2月27日 10時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蛹 | 作成日時:2021年2月15日 22時