【第四章】拝啓、理不尽な世の中へ。【リレー小説】

143,好き【光峰カナ/響《HIBIKI》】 ページ11

本当に自分は愚鈍だと思う。

「翠ちゃん！」

知っていた筈なのに、視野に入れていなかった。

私は皆と違う。

皆に寄り添える位の暗い過去なんて持ってない。

皆と笑えるくらい立派な性格もしてない。

いざ皆を助ける為の、頭脳も、技術も、筋肉も無い。

どうして自分は無力なのだろうか。

能力が無い今。

何が出来る？

「…ッ！」

走った反動で点滴の針が取れる。

血が流れる。

けれど、翠ちゃんは。

「…良かった」

私の腕の中に、収まっていた。

「…まだ、医療は帰ってない筈」

心の中で医療を呼ぶと、医療はすぐに来てくれた。

そして、此方を見て笑った。

「…さようなら。私は、貴方が好きだと思います」

優しい、慈愛の瞳だった。

「…翠ちゃんの事、好きだよ」

ぽつりと呟いた。

「れーくんも、ほのかサンも、真白サンも、流風サンも、皆、皆…」

関わってないと思ってる人だって、私はずっと見てた。

どんな過去を持ってるか。


ifの私は、教えてくれた。


「好きだよ。だから」

居なくならないで。

喪失感に襲われる。

お願い、カミサマ。

どうか、どうか…

誰よりも優しいこの人達を、奪わないで。

私なら、いくらでもあげます。

腕も、足も、髪も、瞳も、顔も、爪も、全部全部。

心の臓だってあげるから。


「…大丈夫？」




翠ちゃんの瞳に射抜かれた時気付いた。

私の頬は、濡れていた。

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