27話 ページ35
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「今日のインタビューで、色々聞いた」
「何を?」
「デビューの時の話」
「あー、なかなか壮絶な物語やろ」
「うん」
「大変やってん」
綺麗な歯を見せて、懐かしむようにそう言った。
これ以上ないくらい最悪な年明けだと思ってたけど、大毅にとっても最悪な年明けだった。
「全部抱え込んでたんでしょ」
「どうやろなぁ…諦めてるメンバーも多かったしな」
「ちょっとくらい私に頼ってくれればよかったのに」
頼れなかったから、頼らなかったのに。
身勝手な言葉だって分かってても認めたくなかった。
「Aに言うのはちゃうやん」
私とは世界が違う。
だから何もできなかった。
大毅の口から聞くと痛感してしまう。
「それも、そうだね」
「うん、ごめん」
大毅に謝られると、胸が痛くなる。
思い出してしまって悲しくなる。
「それでも、理由くらいは……大毅の口から聞きたかった」
「ごめんな」
「謝んないで」
「んじゃ取り消すわ」
「…ねぇ、雰囲気壊すの好きだよね」
ガハハと笑う大毅は、ここの雰囲気に不釣り合いだ。
そういう自由な所も好きなんだけど、今回は口を抑えないと周りの目がある。
「…っ、ぅわ!!」
「おい、デカい声出すなって」
うるさい口を抑えた手のひらを舐めるなんて…犬か。
いたずらっ子みたいな顔して…油断ならない。
「なぁ、それ何頼んだ?」
「分かんない。お酒詳しくないから」
と答えると、私のお酒を少し飲んで、自分のと変えてくれ と言ってきた。
「え、好きで頼んだんじゃないの?」
「俺もよお分からへんねん。慣れてへんし」
その言葉につい笑ってしまう。
さっきの言葉と矛盾してるけど、こういう所が大毅らしい。
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作者名:はしご | 作成日時:2020年8月31日 0時