9話 ページ10
「さ、絶対に離さないでくださいね。行きますよ」
待って、と制止の声をかける暇もなく剣持さんは飛び回り始めた。
しっかり繋いでくれているので落ちることはないだろうが、あまりの恐怖にこちらも少し、いやだいぶ強く握り返してしまった。
…恥ずかしいとかそういう感情は気づいたらどこかに行っていた。
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「ありませんねぇ、何も」
「そ…そうですね…」
あるかも分からないなにかを続けて早10分、つまり飛び続けて早10分。
かなりのスピードで移動しているし普通に酔いそう。
例えばそう、ジェットコースターに乗っている感じ。
悪い夢なら早く覚めて欲しいところだが、夢から覚めた時に吐いたら嫌だし覚めて欲しくないと思っている私もいる。もうダメだ。
「け、剣持さん、ちょっと休憩」
「うーん、そうですね。何も見つかりませんしここら辺で1度休みましょうか」
心做しか疲れてきましたしね、といいながらゆっくり降ろしてくれた。落としたら怖がると思ったのかな。
それはそれとして、驚くほど本当に何も無い。
どれだけ移動してもあたり一面真っ白な世界が広がるだけで、私たちが本当に動いているのかすらも疑ってしまうほど景色が変わらない。
「あの、翡翠」
「なんでしょう」
「ここまで連れてきておいてなんですけど、僕そろそろ起きる時間っぽいんですよね」
「えっ」
「次来る場所がここか最初の場所かは分かりませんが、まあ多分翡翠と同じ場所に来ると思うので」
「気が向いたら辺りを見てみてくださいね」
「ちょっと」
「あ、やばいほんとにそろそろ限界」
「それじゃあ翡翠、また明日」
嵐のように消え去って行った。
それにしても、連れてくるだけ連れてきて先に帰ってしまうなんて。
私が起きる時間よりも剣持さんの起きる時間の方が早いので仕方ないのだが。
こんな広い場所に1人だと思うと急に怖くなるし吐き気もおさまってきたので、私も早く目覚めてしまいたい。
「明日も会う前提で話してたなあ…」
「……会えるかどうかも分からないのに」
ここ最近はずっと会っているし、そう思ってしまうのも仕方ないと言えば仕方ないのか。
「…ん?」
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作者名:a | 作成日時:2023年9月28日 18時