8話 ページ9
結論から言ってしまえば、飛ぶことは出来た。
剣持さんは器用なのかなんなのかいまいち分からないが、初めてにも関わらず飛び方を完璧にマスターしてしまったらしい。
かく言う私も下手という訳では無いのだが。
「……」
「翡翠?どうかしました?」
「…わ、わたしは歩いて周辺をみてこようと思います、見落としているところもあるかもしれませんし」
「え?」
急いで降りたが、あまりに急ぎすぎて尻もちを着いてしまった。
大した高さではないのだが、痛い。
剣持さんはというと、こちらを見て数秒ポカンとしたと思えばなにかに気付いてしまったかのように目を見開き、耐えきれないというふうに吹き出した。かなり勢いよく。
「んふ、んふふ、あは、翡翠、もしかして高いところ苦手なんですか?」
「わ、笑わないでくださいよ」
「んふ、だって、怖いなら怖いっていえばいいのに」
「恥ずかしいじゃないですか…」
「何が怖いんです?」
「なんか、こう…ふわって浮く感じとか、落ちたら怖いし」
私の家は2階建てでそこまで高くないし、飛行機に乗ったことも幼い頃、それも片手で数えられるほどしかないし、普段空を飛ぶことだってもちろんない。
ブランコも高いところまで漕げないし。それからジェットコースターとか観覧車も乗れない。
「うーん、手でも繋ぎます?」
「は?」
この人は一体何を言っているの?
会ってから1週間ちょっとだし、しかも思春期真っ只中だし。私が年下だから躊躇わないの?
剣持さんが躊躇わなくても私は躊躇うが。
手繋いだことなんて小学生のプールの時間の時が最後だ。しかも同性だったし。
「…いや、それはちょっと」
「え、なんでです?」
「距離感がおかしくないですか」
「えぇ?」
なんか、この人誰にでもこうなのかな。
そう思ってしまうくらいには何も考えずに発言したように見える。
これが天然タラシってやつなのか。学んだ。気をつけよう。
「ほら、ちゃんと支えててあげますから。なんなら足に乗ってもいいですよ」
「ひっ」
私の答えを待たずに手を握って浮き始めた。
確かにさっきより安定感はあるが、怖い。それに近い。とにかく近い。
ちゃっかり足を乗っけてしまっているのでさらに近い。
なんだかいい匂いがする。ここは夢のはずなのに。
「無理、無理です、普通に怖い、おろして」
「降ろしませんよ、離れたら見つけるの面倒ですし」
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作者名:a | 作成日時:2023年9月28日 18時