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6話 ページ7

「んふふ、変な顔」


「……う、うるさいです」


「鏡で見ます?」


「見ません……」



まるで子供が拗ねたかのような声を出してしまって心底恥ずかしいが、彼の言う変な顔も見られてしまっているのでもう気にしないことにする。

……左側が音を立てているような気がするのは、初めて出会ったタイプの人間に困惑したせい。

きっとそう。



「……あ、もうそろそろお別れかもしれません」


「…なんで分かるんですか?」


「少しずつ引っ張られる感覚があるんです、きっと現実に戻されているんでしょうね」


「……そ、ですか」


「いやぁ、昨日よりも喋ってくれて僕も楽しかったです」

「今日の学校、楽しめそうだなあ」



ニコニコと目覚めた後のことを考えている剣持さんはすごく眩しく見えた。

手を伸ばせば届く距離にいるのはずなのに、なぜかすごく遠くにいるみたいで。
私には程遠い存在なのだと改めて分からされた気分だった。



「……そろそろ時間です」


「…いい一日を過ごしてくださいね、剣持さん」


「はい」

「……翡翠」




「また明日」




「…また、明日」



少し微笑んだ後、剣持さんは私の前から姿を消した。

ソファーの上にはまだ温かさが残っていて、ちゃんと存在していたんだと実感させる。

これが夢なのが恐ろしいくらいには現実味があった。



「また明日、かぁ……」



初めて私に向けられた言葉は少しくすぐったくて、とても暖かかった。

.

剣持さんの言っていた引っ張られる感覚というのはどうやら私には無いみたいで、いつ目覚めるのかが分からない。

剣持さんは私より早く目覚めてしまってここにはいないし、かといって起きられそうな感じはしない。



「ふかふかのベッド……」



昨日はあまり寝た感じがしなかった。

もしかしたらこの場所でも寝られるかもしれない。
明晰夢は寝てもスッキリしない、みたいな事をどこかで聞いたことがある気がする。
剣持さんのように指を鳴らしてみると、そこには私の部屋に置いてあるベッドと同じものが現れた。



「ほ、ほんとにできちゃった」



本当にできるなんて思っていなかった私は、初めて経験したことに驚きながらもベッドに腰かけた。

実は目に見えるだけで存在していませんでした、と尻もちをつくことも無く、部屋にいるような気分になった。
ただ1つ、光に包まれているような感覚があったことを除いて。

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作者名:a | 作成日時:2023年9月28日 18時

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