5話 ページ6
「それでねぇ、そのときにね__」
「あ!学校終わったらさ__」
「お前さぁ、まじで___」
賑やかな教室の中、私は1人本を読んでいた。
うるさい声に耳を塞ぐように本の世界に入り込んで、ただただ放課後になるのを待っていた。
友達と呼べるような人はここにはいない。
40人も人がいる教室で、私は1人だ。
友達作りなんてものはとうの昔に諦めた。どうも私には向いていなかったみたいで。
何度か話しかけてみたりはしたけれど、気づかれないか話が続かないかのどちらか。
ならもう、友達を作ろうなんて思わない方がいい。
そうしていた方が楽なのだ。
気まずい思いなんて、私も相手もしたくない。
小学3年生にして楽な方に逃げるということを覚えた。
「翡翠さーん!」
「……っぇ、なに」
「学校の近くに大きな公園があるじゃない?放課後皆でそこに集まろうって話してるんだけど、翡翠さんもどう?」
「一緒に遊ぼーよ!」
遊びのお誘い。
初めてのその誘いに正直胸が躍った。
私もクラスの一員になれるかも、そんなことを思っていた。
ずっと避け続けていた「友達」という存在に、私も近づけると思った。
でも見てしまったのだ。
奥にいる子の明らかに嫌そうな表情が。
当たり前だ。1度も関わったことがないやつと遊んだって気まずいだけだ。
そんな少し考えれば分かるような簡単なことにも気づかず、私はあの輪に入ろうとした。
「……用事、あるから。私はいい。みんなで遊んでくれば」
私なんて邪魔なだけでしょう?
「うーん、そっかぁ……わかった!本読んでる時にごめんね!」
「翡翠さん用事あるってー!」
そう言って離れていくあの背中を、私はどんな表情で見つめていただろうか。
.
.
「……剣持さんは、変わった人ですね」
「えぇ?」
「いえ、なんでもありません」
「……あ、さっき名前呼んでくれましたね」
苗字だけど、と微笑んだ。
「…………」
今の私は、どれだけ間抜けな表情をしているだろうか。
いま、名前を呼んだだけ。
名前を呼んで、たいして続きもしない話を少ししただけ。
それだけなのに
____貴方はどうしてそんなに嬉しそうな表情をするの?
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作者名:a | 作成日時:2023年9月28日 18時