4話 ページ5
「………」
「あぁ、また会いましたね」
「………最悪…」
神様のいたずらか。
目の前でニコニコしているこの男は、昨日会った人と同じ見た目をしていた。
誰か嘘だと言ってくれ。
あまりにもハッキリした意識。ガッチリ掴まれた手首。そして目の前のムカつく表情。
あぁ、悪い夢なら早く覚めてくれ。
「……離してください」
「逃げるでしょう?貴方」
「よくお分かりですね」
絶対に離さないぞと言わんばかりに手首を掴む力を強められた。
現役男子高校生と現役(不登校)中学2年生。あまりにも力の差がありすぎて、私は振りほどくことを諦めた。
彼はご満悦そうに目を細めていた。
「そういえばなんですけど、僕凄いことに気づいたんですよ」
「……?」
「ちゃんと見ててくださいね」
そう言って指を鳴らした彼の前には、ちょうど2人が座れるほどのソファーが現れた。
なんだこれ。明晰夢ならなんでもありって言うのか。
もはや魔法と言っても過言では無いそれに、少しテンションが上がった。
「凄いでしょう?翡翠にも出来ると思いますよ」
「私も……」
「…いいです、今は特に欲しいものもないので」
出来なかったら恥ずかしいし。
そうですか、そう言った目の前の彼に手を引かれて、私はソファーに腰かけた。
特に話すこともなければ話したい訳でもないので口を開かずにいると、あたり前だが沈黙が続く。
こういう時、配慮のできない自分が嫌になる。
話したくないだの嫌いだの、話題を探そうともせず人任せで、結局相手に気を使わせる。
人と関わるのは苦手だ。理由は単純、難しいから。
何を思って話してるのかも自分のことをどう思ってるのかも分からなくて、人それぞれ言って欲しくない事は違ってて、ちょっとした事で距離を置かれる。
結局、こういうのが重なって学校にも行かなくなった。
「……」
「そうだ翡翠、今日は何をしましたか?」
「特に…、……なにも」
ほら、口下手だ。
ここで「小学4年生の勉強してました!」とでも言えればなにか変わるのかもしれない。
ただ、その言葉が私の口から出ることは無かった。
「そうですよねぇ、代わり映えしませんよね」
「……え」
「僕も今日は本当に何も無かったです、面白かったこと」
「聞いといてなんだって話ですけどね」
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作者名:a | 作成日時:2023年9月28日 18時