2話 ページ3
「まあまあ。これも何かの縁ですし、仲良くしましょうよ」
「……はぁ、勝手にしてください」
「冷たいなぁ」
……可愛い笑い方をする人だな。
ケラケラ笑っている剣持さんを置いて、私は1人歩き始めた。
どこかに出る手がかりがあるかもしれない。
人と何時間も一緒にいるなんてまっぴらごめんだ。
…素性の分からない人なんだから、尚更。
「翡翠、1人でどこに行くつもりなんですか」
「ここから出る手がかりを探しているだけです。着いてこないでくださいね」
「こんな終わりの見えない真っ白な世界で単独行動とか正気です?せっかく人と会えたのに」
「…人と会えたからなんですか」
「え?」
「1人の方が気楽です。夢ならいつか覚めるでしょうし、私は1人でいたいんです。ほっといてください」
「あ、ちょっと翡翠____」
あの人の言葉が終わる前、そこで私は目を覚ました。
少しあいたカーテンの隙間から光が差し込んでくる。
もうしばらく見ていない外の明るさは、あの夢の場所を彷彿とさせた。
「……最悪な目覚め…」
時計を確認すれば、針は6時30分を指している。変な時間に起きてしまった。
また寝ようにも変に目が覚めてしまって寝れそうにないし、かといって特にやることもない。
部屋の外にはあまり出たくないし、適当に部屋で過ごすことにした。
スマホでも見ていればあっという間だろう。
.
.
「……あ、7時」
時の流れは早いようで、もう1時間半経っている。
きっと父も母も起きていているだろう。
もうすぐ朝食の時間のはずだから。
そんなことを考えていれば、部屋の外から足音が聞こえる。
すぐにピタリと止まり、何かを置いた音がして、だんまんと足音が遠くなっていく。
音が止んだ時、私は部屋のドアを開けた。
目の前にはバターが塗られたパンが1枚とヨーグルトがおぼんの上に置かれていた。
「……」
おぼんを持ち上げて、ドアを閉じた。
__私は所謂不登校だ。
小学4年生の時から基本家にひきこもっていて、外に出た記憶はここ数年間無い。
お風呂は両親が寝た後に入って、トイレは顔を合わせないように2階のトイレを使っている。
両親と顔を合わせることも無く、気がつけば4年の時が経っていた。
仲が悪いわけじゃない。ただ私が申し訳ないだけ。
……それだけ。
「……はぁ」
今日1日なにをしようか、着たことのない制服を見つめながらそんなことを考えた。
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作者名:a | 作成日時:2023年9月28日 18時