夢路を辿る【knmc】 (ページ16)

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14話ページ16

気づかれてしまった。

どうしよう、壊す？……いや、さすがにそれは。

「何も聞こえないですから、早く」

「あそこからですよね、聞こえにくいのかも。翡翠も近づけば聞こえますよ」

「剣持さん」

私の制止も虚しく、剣持さんはオルゴールの音の方へと飛んでいく。

見られても困ることはない。だってあのオルゴールは父と母のものであって私のものではないから。
ただ、気持ち的に嫌なだけ。

昨日あったことを思い出してしまうのがいやなだけ。

「……なにこれ、オルゴール？」

「結構前のものに見えますけど」

私を下ろしたあと未だ音楽の止まないオルゴールを手に取り、それをまじまじと見つめている。

さっきから私の頭は昨日のことでいっぱいで、正直剣持さんを気にする余裕もない。
リビングにあった私のおもちゃ、数年振りに聞いたオルゴールの音、悲しそうなお母さんの声。

それら全てが頭の中でぐるぐるしていて、何かがこみ上げてくる感覚がする。

「ねぇ翡翠、これがなんなのか……って、え？」

「ちょま、え、なんで泣いて」

終いには涙まで出てきてしまった。そんな私を見て剣持さんはあたふたしている。下を向いてても手が見える。

……最悪だ、見られた。泣いてるところ。
必死に止めようとしているけど、目を擦っても止まってくれる気配は無い。

「ちが、ちがう、これはちがくて」

「目にほこりが入っただけだから、きにしないで」

なんとも苦しい言い訳だったと思う。そもそもここで埃なんて見たことないし。
でももうこれくらいしか言葉が出てきてくれないほどには頭が上手く働いてくれなかった。

はやく涙を止めようと強めに目を擦っていたら、ふいに手首を掴まれた。

「駄目ですよ、痛くなっちゃう」

「……すみません、泣いている子にどう接すれば良いのかよくわからなくて」

そのまま手首を引っ張られ、剣持さんの胸のあたりに顔が当たる。

「嫌ならいいんです。別に突き飛ばしたっていいけど、翡翠さえよければ僕に話してください」

「言ったでしょ、いつでも聞くって」

そう言って優しく頭を撫でられれば、もう涙は止まらない。
気づけば声を上げて泣いていた。

さっきまで必死になっていたのがバカらしく思えるほどに。