12話 ページ13
リビングに移動し机にオルゴールを置いたところで、私は音楽を流さずにオルゴールとにらめっこをしていた。
なんというか、こう、緊張してしまって。
夢の中でも聞いただろと言われてしまいそうだけれど、それとこれとは話が別というか。
夢の中は仕方ないと思う。そもそも私が付けた訳ではなくて、触ったら勝手に流れ始めたのだ。
「はぁ…」
もたもたしていたら母が帰ってきそうな気がして、数回深呼吸をしてから音楽を鳴らした。
10年以上前のものって聞いていたけれど壊れてはいなくて、音もおかしくない。夢で聞いたもの全く同じ音楽。
なんだか安心してきて、少し眠りそうになってしまった。
ここで寝ちゃダメだと思いながらもうとうとしていたらドアの開いた音がして、一気に目が覚めた。
「…A？」
久しぶりに聞いた私の名前を呼ぶ声が、すごく遠くに聞こえた気がする。
どうして、今日は家を早くに出たんじゃないの。
ガサガサと袋のような音がする。ああ、仕事の為に早く家を出たんじゃなくて、仕事のために早く家を出て買い物に行っていただけだったのか。
どうしよう、顔が見れない。
「A、それ…」
「ご、ごめんなさい、え、っと、少し気になって、あの、その、」
「…できればリビングに置いてくれる、と、うれしい」
それだけ言って階段をかけあがった。
母の声はしなくて、かけっぱなしだったオルゴールの音だけが耳に入った。
走って部屋の中に入って、そのまま私はその場に座り込んでしまった。
ただでさえもう何年も、ほとんど顔を合わせたりはしなかったのに。
何だか頭がぐちゃぐちゃで、今すぐにでも涙が出そうだった。
きっと泣きたいのは私だけじゃないのに。
「A」
控えめに名前を呼ばれて、肩が跳ねる。
「オルゴール、聞いてくれてたんだね。ありがとう、嬉しいよ」
「…リビングに置いておくから、いつでもきいてね」
それだけ言って、足音は小さくなっていった。
私はその場にうずくまって、夜が来るのを待っていた。
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作者名：a | 作成日時：2023年9月28日 18時
