事務員さんの彼女。２ (ページ39)

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62話ページ39

大「あんたを初めて見たとき、
こんな男もいるんだなって驚いた...
でも、あんたみたいな男まで、
親父に媚びてんのかって、うんざりしました。
あんなやつを、尊敬してんのかって...
だから、俺、笑ったんですよ。
電話一本で呼びだされて、よくやるよなって。
......覚えてますか?」

千「薄っすら...?」

大「...蝉がわんわん鳴いて、あんたは汗だくで、
真っ赤な顔して、シャツもびしょ濡れで...
なんていうか...... すげえ、ダサかった。
だけど、あんたは涼しい顔して言ったんです。
''洗車するとお小遣いもらえるから。
一緒に住んでる相方に肉が買えるんだよ''って」

千は思い出したのか乾いた笑いをもらした。

千「はは... あの時、貧乏だったからね」

大「俺は...笑った自分が恥ずかしくなって...」

千「......」

大「誰かのために、一生懸命になれるあんたが、
羨ましくてたまらなかった......
俺も誰かのために、一生懸命になりたかった。
他人との距離を取れないまま、
八つ当たりみたいな、適当な気持ちで始めた
アイドルなんかで...一生懸命な奴らに出会った。
みんな、アイドルに夢見て、頑張って、
俺を頼ってくれて...なのに...。
......言えないです。
おまえら巻き込んで、めちゃめちゃにして、
親父を困らせたかっただけなんて...。
あいつらに申し訳なくて...
信用されるほど、合わせる顔がなくなって...
...言うのが、怖いです...」

大和は苦しそうにしながらも今の気持ちを
千に吐き出していく。

大「言えない代わりに、あいつらに優しくして、
悩みを聞いて、いい人ぶって来た。
......俺は最低の偽善者だ......。
それが、俺の正体だって、
あいつらに話すのがたまらなく怖い......」

静かに大和の独白を聞いていた千は、

千「......やっと素直に言えたね。
スマホ出して」

戸惑う大和に構わず千は、

千「メンバーに電話しな」

大「......今? ここでですか?」

千「そうだよタイミングが大事でしょう」

口ごもる大和に千は優しく諭す。

千「大和くんだってしてるじゃない。
やりたかった、一生懸命」

千の言葉にハッとする大和。

千「不器用な大和くんが、苦手な僕の前で、
スマホを持つ手を震わせながら、
一生懸命。仲間のためにさ。
勇気が必要だっただろ。頑張ったね」

大「...千さん...」

千「その思いが届かない子たちじゃないよ。
みんな、君の帰りを待ってる。
安心させてあげな。
電話して、明日帰るって言いなさい。
それだけでいいから」