事務員さんの彼女。２ (ページ30)

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53話ページ30

千「君が問題をすり替えてる。
お客様、当店では身の上話は品切れ中です。
代わりに、成功譚はいかがですか?
今なら、ポテトもお付けしますけど。違う?」

大和は悔しそうに歯噛みした。

千「......だらしない家庭を作りながら、
自慢話と玩具で必死に君の機嫌をとった
志津雄さんにそっくり」

大「......っ、黙れ......!」

千「......っ、今度は僕と殴りあう?
本当に面倒くさい子だな。
ていうか、エネルギッシュだよね...」

千は大和に掴みかかられるが、
心底呆れたという顔をしていた。

大「あいつと比べるな...!
好きであいつの家に生まれたわけじゃない!
あんな最低なやつ...ッ」

千「なら、認めなよ。大和坊ちゃん。
君は愛されたいんだよ。
でも、愛される努力はしたくないんだよ。
そんな自分が恥ずかしいんだよ」

本音を聞き出すため、わざと煽っていく。

大「......っ」

千「だから、作品で愛されようとしてる。
芝居や歌は君が生み出した作品だ。
でも、君自身じゃない。
作品が愛されたからって、
君が愛されたことにはならない」

大「......うるさい」

千「作品が否定されたからって、
君が否定されたことにはならないよ」

大「...ッ、うるさい...!」

大和の掴む力が強くなり、
千は息苦しくなるがまだ止めない。

千「何が気に入らない?
君の中身がどろどろに汚れていて、
みんなが鼻をつまむ臭いものだとしても
君は人の心を震わせるものを生み出せる。
それ以上、何が必要だって言うの。
ねえ、大和く...、......っ⁉」

大和は千の首を絞める。

大「...ッ、最初からこうすりゃ良かった...!
何も言わないあんたは好きなのに、
生きてる限り、べらべら余計なことを喋る!」

千「...ッ!」

大「あんたが黙れば安心して眠れる!
安心して好きでいられる......ッ」

千「や...ッ...!」

千は目を見開いた。
なぜなら、大和が泣いていたから。

大「......ッ、
それ以上、ひどいことを言わないで...
...俺が間違ってても、優しくして...」

大和は、ハッと今目覚めたように
何も覚えていないようだった。

大「......うたたねしてたのか?
すごい汗...最悪な夢を見た...」

千は息苦しさから急に解放されて
酸素が入り、咳き込んだ。

大「...千さん、どうしたんですか...
......まさか......
スタジオで歌いすぎたんですよね...?」

千はしばらく無言だったが、

千「まあ、そうね...」

大和は映画の役に取り憑かれていたのだった。