#6 優しい抱擁 ページ6
月彦という少年と友人になったのはそれから一年が経った頃だった。
あれから五日に一度のペース、もしくはそれ以上で月彦の家に足を運んでいる。
蜜柑を月彦に食わせていると、月彦の咳は徐々に治まってきた。
それでも季節の変わり目の間は床に伏すことが多い。冬は乾燥していてとくに危なかった。
冬のある日。月彦の部屋に行くとそこには口から血を吐く月彦がいた。
慌てて女中に熱い湯を沸かしてもらい、湯を桶にいれて部屋にいくつも設置した。
すると月彦の血の混じった咳が止まった。
ホッとしていたら月彦が尋ねてきた。
「何故湯が必要だったのだ?蜜柑では駄目なのか?」
私は布団の中にいる月彦に言う。
『冬は空気が乾燥しているからまずは部屋の湿度をあげたのだ。だから蜜柑より湯が必要だった。効果あっただろ?』
月彦は顔と体を反らして私の反対を向いてしまった。
「……私のためか…?」
『そうだ』
冬場は道場が寒くて指先が何度も固まることがあった。令和ではストーブなどがあるがこの平安時代はない。ならばお湯に頼るしかあるまい。
お前のためにやったんだぞ、と思っていると月彦が呟いた。
「……すまなかった」
『何故謝る?辛いのはお前だろ?私が聞きたいのはそんな言葉ではない。お前の元気な言葉だ。お前は和歌を詠むのが下手な私と友人になってくれただろう?』
「…そういうお前こそ、たんきょりそうもできない私と友人になってくれたな」
『そうだったな!』
私が笑ってると月彦の耳が赤くなっていることに気がついた。
熱か?と思ったら月彦は布団を被ってしまった。
『恥ずかしがり屋だな月彦よ!そのツラをこの私に見せるがいい!しかと見届けるとしようではないか!』
「やめろ離せ!!布団が千切れる!!」
『あっはっはっはっは!!ならばそちらが手を離すのだ!さもなくば引きちぎるぞ!』
バッと布団がめくれると、そこには顔を赤くさせた月彦がいた。
予感的中。
「ゆっ…雪彦…!」
『逃さんぞ!早く病を移してくれ!!』
私は令和のときにできなかった他人を抱き締めることを月彦に初めてした。
体を鍛えることしか取り柄がなかった私は、第二の人生で初めて人に優しくなれた。
『月彦。お前は弱くない。私より書物を読み学業に力を入れているではないか』
「……」
『病には必ず治せる薬がある。だから今少しの辛抱だ』
私は月彦の体を抱き締めた。
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スイレン(プロフ) - この作品大好きです!続きめっちゃ楽しみです!更新頑張ってください! (2020年6月5日 22時) (レス) id: 712cc87224 (このIDを非表示/違反報告)
弍神 - うおおおおおおお!こんなにもいい作品があったとは!ありがとうございまs(((続きも頑張ってください! (2020年6月4日 23時) (レス) id: ea6df43fbb (このIDを非表示/違反報告)
きょうちゃん - めちゃめちゃ面白かったです!!続き楽しみにしてます!!更新頑張ってください!! (2020年6月4日 16時) (レス) id: 69a8ce92b1 (このIDを非表示/違反報告)
ふりこ(プロフ) - これすごい面白い!気が狂いそうになるのも分かります!(笑) (2020年6月4日 16時) (レス) id: ae6073fefe (このIDを非表示/違反報告)
綾鷹(プロフ) - 毎度のように続きが気になって狂いそうです。笑笑 (2020年5月23日 13時) (レス) id: 9dc1f8537e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:名無し61903号 | 作成日時:2020年5月16日 6時