#41 全部全部返せよ ページ41
縁壱サイド
姉上が涙を流すのは初めて見た。
自分に厳しく立ち向かって来る者をなぎ倒していった姉上が……泣いている。
朝露のようなまるびを帯びた涙が頬を伝い、顎から胸元の着物へと落ちていく。
『自分より不幸な人を作りたくない！だから私は刀を持った！それなのにお前らは人を守る刀で頸を切れとぬかすのか！お前らはなんだ？本当に血の通った人間か？お前らのほうが鬼ではないか！！』
縁壱「姉上」
私は姉上の着物を掴んだが、姉上は怒気を孕んだ険しい目つきで隊士たちを睨む。
『貴様らに解るものか！結婚を誓った人が殺される悲しみを！！死にたくなるほどの絶望を！！自分の無能さを！！』
縁壱「姉上おやめください」
『知ったかぶりをして人の苦労も知らないその顔にツバ吐きかけたくなるわ！！私が何したって言うんだよ！！』
『返せよ！！私の弟も戌亥も人生も全部全部全部返せよ！！元の世界に返してくれよ！！』
姉上は大粒の涙をこぼしながら畳や着物が汚れるのを関係なくその場に倒れ込んだ。
私たちに弱みを見せなかった姉上は今、涙を流して噎び泣いている。
今まで耐えてきたものが濁流となって押し寄せ一気に爆発したのだ。
『うああ"あ"あ"あ"！！あ"あ"あ"あ"！！』
私と姉上を責めていた隊士たちは何も言わずに立ちすくんだ。
私が無言で睨んだからか、姉上の言葉が心に刺さったかは解らない。
そんなの興味ない。
それよりも私は姉上の境遇がいたたまれない。姉上も私と同じく、自分の命より大切な人を踏みつけにされたのだ。
姉上が自身の拳を畳に叩きつけだしたので私は慌てて止める。
「…雅」
父上を亡くされ、幼くしてお館様となった方が声をかけた。
「大切な人を亡くす悲しみは深いでしょう。切腹はいたしません。だけど巌勝が鬼となった責任として、鬼狩りを追放します」
「お、お館様…」
「それでは…」
「何か不満ですか？貴方たちが鬼狩りを怠けていたのは存じています。貴方たちは彼ら以上の力があるのですか？むやみやたらに切腹という言葉を使ってはいけません。命は大切なのですよ」
お館様には何でもお見通しのようだ。
「雅、縁壱。刀を置いて下さい。処罰はそれだけです」
私は日輪刀を置いた。
姉上は全てどうでもよくなったのか、日輪刀を腰から外すなり畳に叩きつけようとしたので慌てて止める。
最後に日輪刀を持つ姉上の手は震えていた。
その震えには何が詰まっているのだろうか。
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スイレン(プロフ) - この作品大好きです！続きめっちゃ楽しみです！更新頑張ってください！ (2020年6月5日 22時) (
レス) id: 712cc87224 (このIDを非表示/違反報告)
弍神 - うおおおおおおお！こんなにもいい作品があったとは！ありがとうございまs(((続きも頑張ってください！ (2020年6月4日 23時) (レス) id: ea6df43fbb (このIDを非表示/違反報告)
きょうちゃん - めちゃめちゃ面白かったです！！続き楽しみにしてます！！更新頑張ってください！！ (2020年6月4日 16時) (レス) id: 69a8ce92b1 (このIDを非表示/違反報告)
ふりこ(プロフ) - これすごい面白い！気が狂いそうになるのも分かります！(笑) (2020年6月4日 16時) (レス) id: ae6073fefe (このIDを非表示/違反報告)
綾鷹(プロフ) - 毎度のように続きが気になって狂いそうです。笑笑 (2020年5月23日 13時) (レス) id: 9dc1f8537e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：名無し61903号 | 作成日時：2020年5月16日 6時
