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#5 別人と外の世界 ページ5

無惨サイド

隣人宅に住む雪彦が一月ぶりに訪ねてきたと思ったら雪彦ではなかった。全くの別人となっていた。

いつも楽しそうに和歌を詠んでいた雪彦は私に果実を突きつけ、女中を怒鳴り、私を気にかける言葉を投げかける者となっていた。

この一月で雪彦の身に何があった?

遠回しに聞いても雪彦は別人のように強い男子になっていた。体だって筋肉がついたのか、三キロもある壺を背中に背負っている。

それに比べて私の腕は細い。今日も咳のせいで床から起き上がれなかった。


「私の体が弱いことを知ってての当てつけか」


体が弱いせいで走れないことを知っててお前は私にそんなことを言うのか。

怒りをぶつけようとしたら雪彦は言った。


『それなら私に伝染してしまえばいい。私にその病を移せ。そしたら一緒に風を感じながら走ろうではないか!』


前の雪彦はそんなこと言わなかった。

前の雪彦はいつも「大丈夫?」「今度桜の枝を持ってくるよ」ということしか言わなかった。

それなのに……今の雪彦はなんと言った?

私にその病を移せ?それは正気か?

思わず目を見開くと雪彦は豪快に笑った。

そして雪彦は私の前に座ったまま言う。


『外の世界はとても広い。こんな狭い部屋にいないでさっさと出てこい。桜が散ってしまうぞ』


そう言ってまた笑った。

雪彦は新しい生を受けたように楽しそうに立ち上がると『また来る!』と言って部屋から出て行った。

私は雪彦が置いていった壺の中身の蜜柑を一つ食べた。

甘くて甘くてなぜか心を満たしてくれるような感じがした。

初めて知った人の愛情、暖かさ、言葉。どの書籍にも載ってない『びたみんしぃ』とかいう言葉。

外にいる女中でさえ私を気にかけていなかったのに雪彦は私を気にかけてくれた。私の代わりに怒鳴ってくれた。

外の世界とはどんな場所だ雪彦。教えてくれ。

咳を治してくれた礼もまだ言えてない。

また来たとき、咳を治してくれた礼を言うとしよう。

そのときまでこの壺は預かっておくぞ。

#6 優しい抱擁→←#4 私は私だ



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スイレン(プロフ) - この作品大好きです!続きめっちゃ楽しみです!更新頑張ってください! (2020年6月5日 22時) (レス) id: 712cc87224 (このIDを非表示/違反報告)
弍神 - うおおおおおおお!こんなにもいい作品があったとは!ありがとうございまs(((続きも頑張ってください! (2020年6月4日 23時) (レス) id: ea6df43fbb (このIDを非表示/違反報告)
きょうちゃん - めちゃめちゃ面白かったです!!続き楽しみにしてます!!更新頑張ってください!! (2020年6月4日 16時) (レス) id: 69a8ce92b1 (このIDを非表示/違反報告)
ふりこ(プロフ) - これすごい面白い!気が狂いそうになるのも分かります!(笑) (2020年6月4日 16時) (レス) id: ae6073fefe (このIDを非表示/違反報告)
綾鷹(プロフ) - 毎度のように続きが気になって狂いそうです。笑笑 (2020年5月23日 13時) (レス) id: 9dc1f8537e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:名無し61903号 | 作成日時:2020年5月16日 6時

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