#37 かじかんだ指先 ページ37
巌勝サイド
縁壱の優れた剣技を我が力としたかった。
姉上と縁壱と同じ鬼狩りになる道を選んだ。
……選んだはいいものの、私は縁壱や姉上のような力を持っていない。
縁壱の視覚も、姉上の体力も。
鍛錬を重ねる時間がまだ足りない。
どうやったら追いつけるのだ。
『巌勝！起きたのか！』
今の季節は冬で、屋根に積もった雪が落ちた音で私は目が覚めた。
私は目ヤニを落とすために目を擦り、姉上の姿を見る。姉上は任務に出ていたから今帰ってきたのだろう。
『日は昇ったばかりだぞ。早起きは三文の徳というが早すぎるのは』
巌勝「あ、姉上ッ…！？」
そこにた姉上は上着を着ていなかった。
さらしを巻いた胸が丸見えだ。思わず自分の着物を姉上に被せた。
巌勝「何故着ていないのですか？！風邪でもひいたら」
『風邪はひいたことがないから心配無用だ！それよりも着物が汚れるぞ』
巌勝「洗いますので暫しこのままでいてください……姉上、上着は？」
『寒がってた子供にやった。私はこれで充分だ』
誰にでも優しい姉上は、不運な子供に自分の服を与えたのだ。
自分も寒いと体が震えているのに、姉上はためらうことなく子供に上着を与えたと言う。
『損得勘定で物事を見るな。助け合うのが人間だ』
姉上は私の着物を着ながらかじかんだ両の指先に息を吹きかけた。
『服を買う方法などいくらでもある。だけどな巌勝。服を買って幸せを手にしても、それは本当の幸せとは違うかもしれないぞ』
幸せではない？
巌勝「ならば何故、姉上は子供に服を与えたのですか？姉上の思う本当の幸せとはなんですか？」
『人にすることはいつか自分に巡り巡って戻ってくる。長い年月になるが、生きている限り時間はある……だかな』
姉上は困ったような悩むような、なんとも言えない表情をした。
『本当の幸せとは、人を辞めることだと思うのだ』
ドサ、と屋根に積もった雪の落ちる音。
縁壱の楽観視とは違い、姉上は神のような視点からそう言った。
『全て満ち足りることなどない。欲は次から次に増えて行く。全て手に入れるには人を辞めるのが手っ取り早いのだ』
人を……辞める。
巌勝「…それだけ聞くと、鬼に憧れや憐れみを抱いているように聞こえますが…」
姉上はふっ、と軽く笑った。
『…少し、な……さて、もうそろそろ皆起きる時間だ。その前に風呂に入ってくるぞ』
着物は借りるぞ、と言って姉上は風呂に向かった。
何を、とは聞けなかった。
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スイレン(プロフ) - この作品大好きです！続きめっちゃ楽しみです！更新頑張ってください！ (2020年6月5日 22時) (
レス) id: 712cc87224 (このIDを非表示/違反報告)
弍神 - うおおおおおおお！こんなにもいい作品があったとは！ありがとうございまs(((続きも頑張ってください！ (2020年6月4日 23時) (レス) id: ea6df43fbb (このIDを非表示/違反報告)
きょうちゃん - めちゃめちゃ面白かったです！！続き楽しみにしてます！！更新頑張ってください！！ (2020年6月4日 16時) (レス) id: 69a8ce92b1 (このIDを非表示/違反報告)
ふりこ(プロフ) - これすごい面白い！気が狂いそうになるのも分かります！(笑) (2020年6月4日 16時) (レス) id: ae6073fefe (このIDを非表示/違反報告)
綾鷹(プロフ) - 毎度のように続きが気になって狂いそうです。笑笑 (2020年5月23日 13時) (レス) id: 9dc1f8537e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：名無し61903号 | 作成日時：2020年5月16日 6時
