#32 溝を埋める夜 ページ32
縁壱サイド
『──生きてて、良かった…』
姉上はそう言った。
うたを鬼に殺された私にとって、それはまるで呪いのように聞こえてしまった。
何故自分だけが生き残ってしまったのか。
いつもより長い風呂の時間を過ごし、風呂から上がると姉上が食事を振る舞ってくれた。
姉上と食事をするのは十年ぶりだ。
姉上は私の三畳の部屋に自分の食事を持ってきて二人で食べることはあった。父上に見つかって殴られても姉上は止めなかった。
私のことを気にかけてくれる姉上は私が食事をして落ち着いたら話をしてほしいと言ってくれた。
私も姉上と話したい。だから食事をしながら姉上に鬼狩りに入りたいこと、うたのこと、うたと過ごした時間に感じたものほぼ全てを話した。
姉上は親身になって聞いてくれた。私が沢山話すのが嬉しいようで目を見て聞いてくれてた。
姉上から兄上のことも聞いた。継国の領土が改良して民に笑顔が溢れたこと、姉上が父上と闘って勝ったこと。その代わり顔に傷を負ったことも聞いた。
姉上から恋人の話も聞いた。
昔、姉上は結婚したくないと言っていた。だけど姉上は結婚したい相手を見つけ、その男性と祝言をあげるつもりだったこと。
そして恋人の男性が鬼に殺されたこと。
姉上は辛そうにしていた。結婚を誓った人を殺された苦しみは私も痛いほど理解できる。
生きてて良かった、とあのとき言った姉上の言葉はそういう意味だったのかと今頃理解した。
姉上が私を強く抱き締めた。
会わなかった十年間を取り返すように、くっついて離れない。
私も姉上を抱き締めた。
未だに持っている姉上から貰った櫛で姉上の髪を梳いたら、姉上は笑った。
適当に切り添えた姉上の髪を梳くたびに、私は昔を思い出した。
櫛を懐に戻して再び姉上を抱き締める。
私はあの頃を思い出し、姉上の腕の中で眠りについた。
『縁壱。お前まだ驚かないのか。縁壱の背後に胡瓜を置けば驚いて声を上げるか?』
縁壱「私は猫ではありません姉上」
『ならば私が竹を使ってダンジョンでも作れば汗でもかくか?』
縁壱「だんじょんが何か知りませんが、竹の無駄遣いはおやめください」
『…そうか!笛を吹こうではないか!!その手があった!!』
縁壱「良いでしょう」
二人で兄上が作ってくれた竹の笛で音を奏でた。
外れた音色は私の胸に染み渡った。
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スイレン(プロフ) - この作品大好きです!続きめっちゃ楽しみです!更新頑張ってください! (2020年6月5日 22時) (レス) id: 712cc87224 (このIDを非表示/違反報告)
弍神 - うおおおおおおお!こんなにもいい作品があったとは!ありがとうございまs(((続きも頑張ってください! (2020年6月4日 23時) (レス) id: ea6df43fbb (このIDを非表示/違反報告)
きょうちゃん - めちゃめちゃ面白かったです!!続き楽しみにしてます!!更新頑張ってください!! (2020年6月4日 16時) (レス) id: 69a8ce92b1 (このIDを非表示/違反報告)
ふりこ(プロフ) - これすごい面白い!気が狂いそうになるのも分かります!(笑) (2020年6月4日 16時) (レス) id: ae6073fefe (このIDを非表示/違反報告)
綾鷹(プロフ) - 毎度のように続きが気になって狂いそうです。笑笑 (2020年5月23日 13時) (レス) id: 9dc1f8537e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:名無し61903号 | 作成日時:2020年5月16日 6時