#12 本当は ページ12
無惨サイド
『何を弱気になっている。私はそんな姿見たくないぞ』
雪彦にそう言われたとき、私は自分の胸が焼ける音がした。
動けぬ体をとは違い、雪彦は献身的に私に尽くしてくれている。
それなのにもかかわらず私は雪彦に怒鳴った。
「目障りだ!さっさと消えてくれ!!」
こいつの顔が見たくなかった。
自分の弱い姿を見せたくなかった。晒したくなかった。
雪彦は誰よりも私の体の回復を願ってくれていた。
秋は栄養のある食べ物を運び、雪の日には湯を沸かし、春には花を持ってきて、夏には手ぬぐいを交換してくれた。
誰もが手遅れという私の病を治すべく、雪彦は私の家にかかさず来てくれた。
下手になった和歌を詠み、外国の話をし、海の動物の話をし、まだ見ぬ未来の話もしてくれた。
雪彦を見るたびに辛いのだ。
健康的な雪彦を見るたびに病弱の己に嫌気が差し、いっとう惨めな存在に感じるのだ。
頼むから消えてくれ。
茶碗を投げても怯むこともせず私に話しかける姿を見るたびに己の方が悪者だと感じてしまう。
雪彦が帰ったあと女中に部屋の掃除をさせた。
その女中が部屋から出ると本当の静寂が部屋に戻った。
耳に痛い静寂。私は忌々しい咳をしながら雪彦のことを考える。
側に居てほしくなかった──違う。本当は側に居て欲しい。
顔を見たくなかった──違う。本当は顔を見ながら話したかった。
独りになりたかった──違う。本当は隣にいてほしかった。
消えてほしかった──違う。本当は一緒に生きたいのだ。
生きたい。雪彦と生きたい。
嗚呼、どうしてあいつに酷いことを言ってしまったんだろう。
今なら文を出せばあいつは飛んで来てくれるかもしれない。
雪彦に文を送るなど初めてだ。
咳を押し殺し、筆を持とうと手を伸ばした時。
襖の向こうから医者の声がした。
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スイレン(プロフ) - この作品大好きです!続きめっちゃ楽しみです!更新頑張ってください! (2020年6月5日 22時) (レス) id: 712cc87224 (このIDを非表示/違反報告)
弍神 - うおおおおおおお!こんなにもいい作品があったとは!ありがとうございまs(((続きも頑張ってください! (2020年6月4日 23時) (レス) id: ea6df43fbb (このIDを非表示/違反報告)
きょうちゃん - めちゃめちゃ面白かったです!!続き楽しみにしてます!!更新頑張ってください!! (2020年6月4日 16時) (レス) id: 69a8ce92b1 (このIDを非表示/違反報告)
ふりこ(プロフ) - これすごい面白い!気が狂いそうになるのも分かります!(笑) (2020年6月4日 16時) (レス) id: ae6073fefe (このIDを非表示/違反報告)
綾鷹(プロフ) - 毎度のように続きが気になって狂いそうです。笑笑 (2020年5月23日 13時) (レス) id: 9dc1f8537e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:名無し61903号 | 作成日時:2020年5月16日 6時