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「……五条。いい加減にしてくれ。」
「なにが。」
「伊地知だよ。お前が強く当たるから、さっき胃薬を貰いに来たぞ。」
「……僕のせいなの?」
「自覚がないのか?」
「ないね。いつも通り優しい先輩だよ。僕は。」
持ち帰った呪詛師の遺体を硝子に渡しに来たら
珍しくコーヒーを出され椅子に座らされた。
何の用かと思えば下らない説教。
話半分に角砂糖を入れて暇を持て余せば、今度は入れ過ぎだと怒られる。
こんなことなら引き渡しも伊地知にやらせればよかった。
「…はあ。…用がないなら帰るけど。」
「…Aさん。…行方も分からず、連絡も取れないそうだな。」
「…。」
「不安か?」
「冗談でしょ。もう高校生じゃないんだよ。」
「…。」
「……………。」
「……………。」
「……………。」
「まあ…、あの頃と状況は違うんだ。我が子同然の伏黒も、教え子の秤も居て、無責任に何処かへ消えるような人じゃない。」
「………んなこと、お前に言われなくても分かってるよ。」
「……そうか。てっきり昔のように先走って、自暴自棄になってるかと思ったが、…杞憂だったな。」
硝子に止められたせいで甘さの足りないコーヒーを流し込み、もう何度確かめたか分からない既読の付かないトーク画面を開く。
着信も、メッセージも、
届いているのかさえ分からずにもう1週間が経つ。
夜蛾学長は何か知ってそうだが教えてはくれない。
何処で、誰と、何をしているのか、想像もつかない。
ただひたすら帰りを待ち、
そこかしこに染み付いた彼女の香りに恋しさを膨らませる。
そして同時に忘れかけていたあの頃の感情も思い出す。
何の前触れもなく、
物も、面影も、何もかも奪い取って残さず消えた。
置いて行ったのは決して忘れさせてはくれない呪いだけ。
憎くて、厭わしい、初恋。
恨む気持ちが大きくなるほど、
こんな思いをしても
どうしても彼女しか愛せない自分が疎ましかった。
「……少しだけ、お前が羨ましいよ。」
「…?」
「…もう僕は、あの人の居ない世界じゃ生きられない。幸せか不幸せかの秤も、Aさん次第で傾くくらいに依存してるんだ。…しかもね、……それさえ愛おしいと思ってる。」
「……。」
「こんなに人を愛したことある?」
「……人でなしのお前に、愛を語られる日が来るとはな…」
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妃 - すごく素敵な作品でした!個人的にその後の恵を見たいです。続編も楽しく読みます。 (2020年11月27日 20時) (レス) id: edafa70660 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初めまして。昨日の夜からこのシリーズ全て読ませて頂きました、振り回される五条凄く好きです、主人公も好きです…!こちらは完結でしょうか?もし続きあれば楽しみにしています! (2020年11月17日 11時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - とっても面白く、素敵な小説で何回も読み返しています(><)!!アンケートの件ですが「チューベローズの初恋 続」後の9年間のお話を希望します...!!! (2020年10月18日 1時) (レス) id: ff2316c362 (このIDを非表示/違反報告)
SS(プロフ) - 9年後のお話希望です!新しい方のお話とも悩んだのですが、まだチューベローズの五条悟が読みたいです、、! (2020年10月17日 20時) (レス) id: 9f946892a2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆで卵(プロフ) - 度々コメント失礼します!チューベローズの初恋 短編集を読んでみたいです…!!!元許嫁のお話もとても面白そうで悩んでしまいましたが、チューベローズの初恋をもっと読みたいなと思いました。新しい作品も応援してます!! (2020年10月17日 0時) (レス) id: 18a070aa90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:縞 | 作成日時:2020年5月23日 12時