表情観察録【ゼアノートのハートレス】 ページ45
虚ろな瞳をしては、何も言わずに唯々宙に漂うその子。
話しかけようとも、視線をこちらに向けるだけであって表情すら変えはしない。
その子はハートレスの様な存在である為、生まれたその時から既に理性は無い。
話し相手にすらならない事に、これではつまらないな、と前々から思っていた。
「A」
そこで、私はその子に名前を与えてみた。
まずは、反応してこちらに寄ってくるまで何回もその名を呼んでみる。
やっと自分が呼ばれていると気づいたAは、振り向いたがこちらには来ない。
仕方がないので手を広げてみると、その子は何かを思い出した様子でおずおずと近付いてきた。
「よし、良い子だ」
聢と私の胸に収まったその頭を撫でる。
すると、Aの相好はふにゃりと崩れ、擦り寄る様に私の服を軽く握った。
「っ……!」
思わず驚いて手を離すと、不思議そうにこちらを見詰めてくるA。
その子の表情や行動に対してだろうか。
驚愕と同時に愛おしさが、闇に染まった己の心から込み上げてきた。
この時、私はその子の表情を更に見てみたいと思えたのだ。
「ゼアノート〜」
アンセムでは無く、教えた私の名前を呼んでは、こちらに寄ってくるようになったA。
以前の無機物の様な表情は消え去り、その子は常に微笑んでは私の下に来た。
私は種々様々な方法を試み、その子の感情と共に移り行く表情を観察した。
歓喜、憤慨、驚嘆、悲嘆、羞恥……一度覚えれば後は適当に使ってくるに当たり、元の心がそれを覚えているのだろうと推測する。
「……フフ、私も甘くなったものだな」
飛んで来たAを受け止めては、ひしと抱きしめる。ご機嫌に微笑む様子に、ふと私は思った。
時に、私はこの子の恐怖を感じた時の顔は見た事が無いな、と。
探究心が人一倍強い私だったからか。一度それを自覚してしまうと、気にかかって仕方がないのだ。
「A」
「んー?」
こちらに目を向けては、頭を傾げたその子の首を掴んでみる。しかし、それだけでは特に何も反応は示さない。では、どうだろうか。
「……っ!? う、あっ……」
少し力を込めると、途端に刮目するなりもがき苦しみ始める。
か細い声を出し、こちらに向けられた目を見て、ゾクリと奥底からある感情が湧いた。
「お前の表情は、どれもこれも私の心を動かす。
やはり私はお前を愛しているぞ、A」
そう言った私は、その子の首を締め付けたまま、その唇にキスを残した。
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レフト(プロフ) - ご満足頂けたようで何よりです。ソラさんもわざわざこのような小説にリクエストして下さり、誠に有難うございました。 (2019年5月27日 22時) (レス) id: 472b62e3a2 (このIDを非表示/違反報告)
ソラ(プロフ) - 完結おめでとうございます!とても面白かったです!ありがとうございました (2019年5月27日 5時) (レス) id: 788aead105 (このIDを非表示/違反報告)
レフト(プロフ) - ムスメ3さん» 今までのご閲覧、誠に有難うございます。ムスメ3さんから頂いた沢山のリクエストは非常に捗りました。 (2019年5月27日 1時) (レス) id: 472b62e3a2 (このIDを非表示/違反報告)
ムスメ3(プロフ) - すごい面白かったです!完走おめでとうございます! (2019年5月26日 19時) (レス) id: a84e4bce58 (このIDを非表示/違反報告)
レフト(プロフ) - いちごみるくさん» 四ヶ月という時間を掛けて漸く完結致しましたが、初期の方から見て下さったいちごみるくさんには感謝しきれません。今までご閲覧頂き、本当に有難うございました。 (2019年5月26日 13時) (レス) id: 472b62e3a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フェトルクス | 作成日時:2019年1月25日 0時