【王国心】歪め 愛せよ 我等の御心 【短編集】

甘美なスイーツ【デミックス】(リクエスト) ページ40

「かーわいいな、Aはー」

「……」


抱きつく俺に、抱きつかれるA。

自分でも甘ったるいと思えるような声を出して、俺は触れた場所から中心へと段々伝わってくる暖かさを楽しんでいた。
対して、その子は無表情で大人しくしている。
……という訳ではなく、体に回した俺の腕を掴んで引き離そうと頑張っていた。


「抱きつくのはよせ。任務に行けない、邪魔」

「えー、イイじゃーん
Aもサボって俺と一緒にいてよー」


抱きつく力を強めての発言に、その子は顔を顰めて蔑する様な視線をよこしてくる。

うん……何気に傷付いたよ、俺。
けれども、冷やかにこちらを見つめるその目は、混じり気がない透明の飴みたいに綺麗で美味しそうに思えた。


「おい、私の話を聞いているのか」

「……んー？どったの？」


Aの声に、暫く不明瞭だった思考がはっきり戻ってくる。どうやら見入っちゃってたみたいだ。
ついつい出そうだったヨダレを引っ込め、いつも通りの調子で俺は首を傾げる。

俺の様子に何かを諦めたその子は、怒った様に頰を赤らめながらも告げた。


「……早く手を離せと言っているんだ。
さもなければサイクスに報告するぞ」


……おお、Aが脅しとか珍しいなー。
なんて、正直思うのはそんなところだ。

それよりも俺の気を惹いてやまないのは、やっぱりその子自身であって。
少し紅潮した白い肌や、手触りのいい髪とかを見ていると、目の前に極上のスイーツが置かれている様な気分にもなった。


___ああ、美味しいだろうなー

血は鉄臭い味がするし、生の肉なんて本来食べれたものじゃないだろう。
……でもAなら、きっと全てが甘くて幸せな味だ。だって、まだ食べてもないのに口の中が甘くなる様な感覚がする。

それに、好きな子と一緒になれるだとか、他の奴にこの子が近付かなくて済むだとか……よく考えてみると、利点しかないじゃん！


頭の中でまとまった結果からか、思わず喉が鳴る。
極まった思考はもう、選択肢すら残す事は無かった。



「ねえねえ、Aのこと食べていい？」

「……は？」


率直に尋ねてみる。すると、その子は腑抜けた声を上げるなり、変な奴を見た様な表情を浮かべた。

そんなAに、唇に一つキスを残して俺は言う。


「いいじゃん！ ちゃんと残さず食べるし、ずっと一緒にいられるし。

ねえ、だから」


___食べさせてよ。

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