親の心子知らず【ヴィクセン】 ページ37
私は研究の資料も纏め終わり、手が空いたので取り敢えずのことロビーで待機していた。
……と、いうのも、いつもは既に帰って来ているであろうこの時間帯。私はあの子の姿をまだ見ていなかったのだ。
心を無くし、研究のみに没頭していた日々は、あの子がこの機関の一員になった事で大きく変わった。
最初はまた増えたのかと大して興味にも至らなかった。しかし、共同の任務で行動を見守っていたりするうちに、段々と放っては置けなくなったのだ。
第一の理由としては……
「A! どうしたのだ、その傷は!」
「……? ああ……別に気にする事ではない」
こうして、怪我を顧みずに敵に突っ込んでいく性格だろう。
Aは頰に切り傷を負ってここに帰って来た。本人はいつも通りの返答をするが、気にならない訳がない。何しろ年頃の女の子の顔に傷など以ての外という話だ。
「ほら、手当てするぞ」
「平気だと言っているのに……」
私はブツブツと言う不満顔のその子の手を掴んで、手当てのできる場所まで連れて行く。
そして、無茶をするな、とその子を軽く叱りながらも治療を施していった。
「……ヴィクセンは親みたいだな」
「ん?」
不意に、Aは何を思ったのか、そんな事を呟く。
私が聞き返すと、続けてその子は話し始めた。
「今日、ハートレスに襲われそうになっていた子供を助けたんだ。その時、咄嗟に庇ったからこうなったんだがな。
ハートレスを倒した後、子供の母親が来てはその子供を叱って、凄く心配していた。
私は親なんて考えた事が無かったが、行動がアナタと良く似ていた、と何となく思い出したんだ」
……親、か。そうだな。 私のAに向ける感情はそれが一番正しいのだろう。
しっかりと手当てをし終えて、その子の頭を撫でる。
「私がお前の親なら、もっと厳しくするところだ。全く……怪我なんぞしてきおって」
「只でさえも厳しいぞ」
私の発言にそう返したAの、怪我をしていない方の頰をつねる。
いひゃい、と舌足らずに訴えるその子に私は言った。
「とにかく! 私が言っておいてやるから、基本的に誰かと一緒に行動しろ!
シグバールは……駄目だ。
あの若者どもも信用ならん
だとしたら___」
私があれこれ考えていると、つねる私の手を何とか離したその子は言った。
「……私の事心配しすぎだろう」
それはそうだ。
なんせお前は何よりも大切なのだから。
私はそう思いながら、再びその子の頭を撫でた
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レフト(プロフ) - ご満足頂けたようで何よりです。ソラさんもわざわざこのような小説にリクエストして下さり、誠に有難うございました。 (2019年5月27日 22時) (レス) id: 472b62e3a2 (このIDを非表示/違反報告)
ソラ(プロフ) - 完結おめでとうございます!とても面白かったです!ありがとうございました (2019年5月27日 5時) (レス) id: 788aead105 (このIDを非表示/違反報告)
レフト(プロフ) - ムスメ3さん» 今までのご閲覧、誠に有難うございます。ムスメ3さんから頂いた沢山のリクエストは非常に捗りました。 (2019年5月27日 1時) (レス) id: 472b62e3a2 (このIDを非表示/違反報告)
ムスメ3(プロフ) - すごい面白かったです!完走おめでとうございます! (2019年5月26日 19時) (レス) id: a84e4bce58 (このIDを非表示/違反報告)
レフト(プロフ) - いちごみるくさん» 四ヶ月という時間を掛けて漸く完結致しましたが、初期の方から見て下さったいちごみるくさんには感謝しきれません。今までご閲覧頂き、本当に有難うございました。 (2019年5月26日 13時) (レス) id: 472b62e3a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フェトルクス | 作成日時:2019年1月25日 0時