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『私、仕事も大事なんです。なのに彼は仕事に必死な私が気に入らないみたいで、私がいけないんでしょうか?』
俺が問いかけるまでも無く、Aちゃんは静かに涙を零しながら現状を語り出した。
恐らく、泣き上戸ってやつなのかもしれない。
顔を赤くしながら静かに泣かれるのも、何だか落ち着かない。
とにかく、席が一番隅で良かった。
「Aちゃんは、仕事も彼も大事に思ってるんだね」
そう言えば、俺を見てから一回だけ頷いて、その拍子にまた涙が頬を伝った。
「恋愛って難しいよね。求めたらキリが無いし、正解も無い。でも、離れて気づく事もあると思うんだよね」
『…………』
「全部大事にしたい気持ちはよくわかる。でも両手で持てる数にはどうしても限界があるでしょ?それに気付いた時、何を選んで、何を手放すのか。もしかしたら今がそのタイミングなんじゃない?」
優しく語りかけるように、俺は言葉を紡いでからビールをグッと飲んだ。
そんな偉そうに恋愛の相談なんか出来る立場でも無いけど、俺の言葉を聞いてAちゃんはまた涙をポロポロと零す。
『ありがとうございます……』
ハンカチで目元を押さえてから、少しだけ落ち着いたのかグラスのカクテルを一口飲んで口を開いた。
『私、お酒を飲むと何故だが泣きたくなっちゃうんです……楽しくても、悲しくても。困らせちゃうから人前で飲むのは控えてるんですけど……ごめんなさい、甘えてしまって』
「問題ないよ、むしろ頼ってもらえて嬉しいな。最近思い詰めてそうだったから心配してたんだよね」
『え、そんな顔に出てました……?』
「何となく、直感?」
『お恥ずかしい……』
「いつも真面目で、明るくて、前向きで。この仕事にも向いてると思う。俺もすごい助かってるよ」
フッと笑いながら言えば、またウルウルと目を潤ませるAちゃん。
え、俺泣かせた?!
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作者名:くるみ | 作成日時:2023年4月5日 14時