white 3 ページ3
屋上への階段を夢中で駈け上がる。
何あれ何あれ！！
どうしよう！！！！
屋上に着いてもまだ、いつもの定位置まで走る。
“ハァハァ…”
上がりきった息と、爆発しそうな心臓を落ち着ける。
だけど、努力しても、
彼のあの目と声が頭から離れない。
『A。』
真っ直ぐ見つめられて呼ばれた時、
ギュッと心臓が持ち上げられて、
つられて身体も浮いてしまってるみたいだった。
名前を呼ばれただけなのに。
心臓がドキドキしすぎて、痛かった。
彼の方こそ、大人っぽくも幼くも見える顔で、
綺麗な目をしてた。
思い出しただけで、またドキドキしてきた…
“あ〜〜もう！！
あの人、危ないっ！！”
息切れはまだ続く。
“はぁ〜〜…。”
深呼吸して、空を見上げる。
彼が病院に運ばれてきた時。
一瞬、意識が戻った。
“クォンさん？わかりますか？病院ですよ。”
当然、私から焦点を合わすようにしたんだけど。
目が合った瞬間から、
また彼が目を閉じるまでの数秒間、
あたしは息をしてなかった気がする。
患者さんに、
しかも運ばれてきた意識のはっきりしない人に
ドキドキするなんて
完全にどうかしてる。
だから。
なかったことにしようと決めた。
今ならまだ間に合う。
見上げた空は
高くて青くて、もう秋。
ここ数年、私はうまくやれてた。
誰にも心を持って行かれず、一生懸命に仕事して、
毎日を生きてきた。
彼は私の何を知って、どうしたいんだろう。
私は、彼に何を見て、何を期待してるんだろう。
終わりは、見えてるのに。
大好きだった人達は、いなくなった。
限りある、命と時間のせいで。
ずっと続く夢のせいで。
愛された記憶と
支えあえる仲間、
自分の全てをかけられる、仕事。
それだけで、充分幸せ。
これ以上、何も望まない。
それに、やっと冷静になってきた頭で考えたら
彼は、別世界の人。
そんな人が私をどうこうしようなんて、あり得ないよね。
そもそも、見つめるのが癖かもしれない！
そうだ！
きっと、そんなところだ！
私が、意識しすぎてるだけ。
もう一度、深呼吸して
あと少し休憩したら、仕事に戻ろう。
あたしはまた、頑張れる。
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作者名：feliz | 作成日時：2018年8月31日 22時
