本当の名前は【第５人格】 (ページ28)

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第２４幕ページ28

金糸で施された精緻な宝相華の深衣。光を吸収して輝く黒絹はまるで夜闇のよう

裙子は如何(いか)なる翠よりも美しい色で、ヒラヒラと舞う様は天女のよう

金の透け細工の指甲套、蝋梅を形どった美しい耳飾り

月夜の天女、その本性は人を惑わす妖狐に過ぎぬ
・
(チェスのルールは曖昧です)

　次の手はチェックメイトとなるか、捨て駒となるか？

朝食後の庭園。一角のガゼボで、二人の女性が向かい合っている

一方は車椅子に座り、何処からか出したチェス・ボードを机の上に置いた。
置かれたボードを見て面白そうにクスリと笑うもう一方

駒を慣れた手付きで並べると、沈黙を貫いていた二人がようやく口を開いた

『白駒(せんこう)は譲りますヨ。後手の方が好きなので』

「あらそう？私はどちらでも平気だから喜んでやらせて頂くわ」

黒々とした瞳を細めると、「e-4」と呟いてポーンを動かした。音が空間に木霊する

『…定石通りと言う訳ですカ。ではc-5』

「あら、バレちゃったかしら。f-3」

『d-6』

「d-4」

『d-4。先陣を華々しく行った雑兵サン(ポーン)は頂きますネ』

「定石通りだもの。差し上げますわ」

チェスは二の次に会話を弾ませる二人。好きな物は何か、趣味は、嫌いなものは何か……

さながら茶会を楽しむ令嬢達のような

到底対立する関係とは思えない光景だった

『…チェックメイト、ですネ』

「もう少しで勝てましたのにー！！強いですわ！」

『アナタも中々の腕前でしたヨ。ここまで持って来られたのも久々でしたカラ』

頬を膨らませてジタバタと手足を動かす姿は少女に呼ぶに相応しく、そこに薄暗い影が差し込む余地は無いように見える

「また勝負しましょう？強くて綺麗な方なら歓迎するわ」

『喜んデ。一勝負ついたところで、茶菓子はいかがですカ？』

「甘いものは大好きよ！」

『ワタシの祖国のものですが、お口に合いますかネ？』

そう行って懐から(出したように見える)風呂敷包みを取り出す。結び目を解くと隙間から湯気が立ち上る

「これは何と言うのかしら？」

『芝麻球(ゴマ団子)と言って、外で食べると美味しいですヨ』

何処にあったかしれない小皿にいくつか乗せて、机の上に置く。彫刻家はしばらく見つめていたが、ゆっくりと手を伸ばして、口の中に放り込んだ

「熱い！熱いわ！喉が焼けてしまいそうよ！！」

『揚げたてですからネ』