第？？幕【追憶】 ページ27
妙な人。不思議な人と言い換えましょう
橋で蹲る私に、声を掛けた貴女はまるで道化のような笑みを浮かべて…
最初で最後の会話があんなもので良かったのかと、時々思うのです
『…死ぬなら後腐れの無いように。貴方達の魂が、何者にも縛られない確証はありませんよ』
「……私のような咎人が救われようとは思いません。ただ彼は…、、無咎は、、、」
初対面の人に話す内容では無い。頭の隅では分かっていても、不思議と言葉が口から次いで出てくる
謝罪、後悔、自身への怒り、、、恨み
ああすれば良かった。こうしておけば……なんて今更言っても変わらないでしょうに
『過去を想えば想う程、今が苦しくなるだけですよ。貴方の意思を尊重する気も、否定する気もありませんが、悔やむくらいなら忘れてしまえばいい』
「彼を殺した罪を忘れる事は出来ません。それは彼との記憶を…存在を否定することになりますから」
『まぁ、未練が残らないように死んでくださいね。生前、貴方の片割れに頼まれたので』
背を向けて歩いて行く貴女を止める言葉は思いつかなかった
何故無咎を知っているのかも、名前すらも、何も知らない
踵を返した時に香った伽羅の香りだけが、私が生前に知り得た貴女への手掛かり
「…どうして言ってくれなかったんですか？」
「お前に言う程でも無いと思って、、、悪い」
「そう言えば聞きましたか？新しいサバイバーが来るそうですよ」
「面倒でなければ良い」
あの橋で首を吊った直後から、私達は共に在る事が叶いました
試合中は会えませんが、普段はこうして話しをして、触れる事も出来る
死後に傘を買い取ってくれたのが貴女だと聞いて、安堵したんです
……未練は無い方が良いと言った貴女自身が、私の唯一の未練となりました
「彼女が来てくれれば良いのに」
「………そうだな」
あの数分の会話で、私は貴女に魅入られたようです
無咎だって、貴女との話をしている時は心做しか表情が和らいでいる
貴女は今、何処に居るのでしょうか
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作者名：夜玄 | 作成日時：2021年6月19日 21時
